「拝啓、この手紙読んでいるあなたは、どこで何をしているのだろう」

 これはアンジェラ・アキの名曲「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」(作詞・作曲 アンジェラ・アキ)の冒頭だ。歌詞はこの後、「十五の僕には誰にも話せない悩みの種があるのです。未来の自分に宛てて書く手紙ならきっと素直に打ち明けられるだろう」と続くが、「十五の僕」を「十二」に変えれば、不思議なことに広島・栗林良吏投手(24)の物語に様変わりする。

ドラフト1位ルーキー・栗林良吏

「いまぼくは、プロ野球選手をめざしています」

 栗林が小学6年生のとき、卒業記念としてタイムカプセルを製作することになった。地中に宝物を埋めたりはしていない。10年後の自分に宛てた手紙を書こうという企画だった。書き出しは「10年後の自分へ」。未来の自分に伝えたいことは、野球のことばかりだった。

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「いまぼくはかしこくないけど、野球が好きですよ。いまぼくは、プロ野球選手をめざしています。いまぼくはなにをやっている? たぶんアルバイト。野球で県大会に出たことはうれしかったな」

 締めは「10年前の自分より」。小学生の頃から将来の夢はプロ野球選手だった。ただし、その夢を面と向かって両親に打ち明けたことはなかった。未来の自分に宛てて書く手紙なら素直に打ち明けられた。

 栗林は夢をかなえようと涙を流して戦った。中学入学前に「硬式のチームでやりたい!」と父・秀樹さんに泣いて訴えても聞き入れてもらえずに、軟式野球チームに入団した。高校入学前には「私立で野球をやらせてください」と再び泣いて頭を下げると、今度は認めてもらい愛知黎明に進学。「進路決定のときは親とぶつかったけど、結果的には感謝しています」。高校2年の秋から本格的に投手に転向し、名城大ではドラフト上位候補として名前が挙がるまでに成長した。