一人ひとりの人生に正解なんてない。誰もがその人なりの幸せを追い求めればいい。スタイルも価値観も十人十色。そうした多様な価値観の尊重が進む一方で、「男は結婚してこそ一人前」「子育ては母親の役割」といった古い価値観もまだまだ蔓延っている。親世代との結婚観のズレで軋轢を感じたことがあるという人は決して少なくないだろう。

 ここでは、共同通信社に所属する筋野茜氏、尾原佐和子氏、井上詞子氏ら3名の女性記者が現代人のリアルな結婚観に迫った『ルポ 婚難の時代 悩む親、母になりたい娘、夢見るシニア』(光文社)を引用。親が子どもの代わりに結婚相手を見つける「代理婚活」の世界を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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共依存の母子

 親が代理婚活をしている30代後半の女性の話だ。実は、私は彼女と十年来の知り合いである。なんでもそつなくこなすキャリアウーマンで、派手さはないが、気さくな面もあって、決してモテないタイプではない。インタビュー取材を通じて、長い間、両親、特に母親との関係に悩んでいることを知った。過去の出来事を語るときは涙を流していた。

「親が断られるなら、私は傷つかないで済む」

 母親が代理婚活をしているという都内在住の美帆さん(39歳・仮名)は、率直な気持ちを吐露した。

 父親は大手銀行に勤め、母親は専業主婦。一人っ子で、小学校から高校まで私立の「お嬢様学校」に通い、有名私立大学を卒業後、総合職で大手食品会社に入った。

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「もともと真面目で引っ込み思案な性格だから、親の期待に応えることを優先して生きてきたの」

 と振り返る。母親は地方議員の長女。就職のために上京し、父とのお見合い結婚を機に専業主婦になった。「頑張れば幸せになれる」と「あなたの人生のためよ」が母親の口癖だったという。美帆さんは母親が進学や就職に口出しするのは当たり前だと思っていた。大学は母親の憧れだった慶應義塾大学を第一志望にして、見事合格。日本を代表するIT企業から内定をもらったときも、母の「もっと安定した会社がいいわ」という助言で断りを入れた。思い返せば、人生の大きな決断はいつも母の顔色をうかがっていた。

 食品会社での業務成績は同期の中でもトップクラスだった。その分、残業や休日出勤は当たり前、プライベートを犠牲にして働いていた。20代の頃に交際した男性とは、すれ違いが原因で自然消滅した。33歳のとき、突然、両親が「この年になって独身で親と同居なんてみっともない。仕事ばかりしていないで早く結婚しなさい」と言い出した。仕事を評価してくれていた両親の思いがけない言葉に動揺した美帆さんは、すぐに約30万円を支払って結婚相談所に登録した。