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「おいら消えちゃうよ~」『ハウルの動く城』カルシファー役・我修院達也が語る「ジブリ声優の宿命」

我修院達也さんインタビュー #2

2021/04/02

source : 文藝春秋 digital

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 映画, 読書

note

――そういった声の設定を決めるのに、どれくらいの時間を掛けたのですか?

我修院 5分くらいです。いろいろと要望を聞かせてもらったら、監督は「じゃあ、もういいですか。今度はちゃんとサブの中に入りますから」って。『千と千尋の神隠し』の頃は、録音スタジオにサブ(調整室)を仕切る壁がなかったけど『ハウル』の時には仕切られていた。これなら、『千と千尋』の時みたいに、監督が僕の声を聞いて吹き出しても大丈夫だって思ったね(笑)。

――初めて〈カルシファー〉の映像をご覧になった時、どんな風に思いましたか?

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我修院 事前に、“火の悪魔”っていうくらいだから、メラメラ燃えて〈口裂け女〉みたいに口角が異常に上がっているのかなと想像してたんです。でも、映像を観たらそうじゃなくて、かわいいんですよね。やっぱり、「この声で正しかった。合っているな」と思いました。もうちょっと高い声でも大丈夫だったのかな……という気もしたけど。そこが難しいところで、少しテンションが上がると〈青蛙〉っぽくなっちゃってはいるんですよ。「消えちゃうよ~。ウッ」なんてセリフは〈青蛙〉の声。その前の「おいら」は低く出しているからといって、「おいら消えちゃうよ」を低いままで通したら駄目ですから。「消えちゃうよ~」は高くしないと。

『ハウルの動く城より』

 しかも、子どもたちが喜ぶようにとも言われてるじゃないですか。だから、「ア、ア、ウェ」とかちょっとおまけをつける。絵が終わって〈カルシファー〉は消えてるのに「ウェ」とか「ア~」とか、余韻を残しています。監督がなにも仰らなかったので、オッケーなんだなと捉えました(笑)。

――では、〈青蛙〉の時のように“人間の声”になってしまっていたこともなく。

我修院 録るたびに「大丈夫ですか?」と確認したけど「オッケー、オッケー」って。あんまりNGはなかったし、なによりも監督から「いま、人間になっちゃってましたよ」と言われなかったのでホッとした。

木村拓哉さん、倍賞千恵子さんとの掛け合いで苦労したシーンは?

――〈青蛙〉と打って変わって、セリフの数もとても多いですよね。〈ハウル〉役の木村拓哉さん、〈ソフィー〉役の倍賞千恵子さんとの掛け合いもあるわけですが、収録はご一緒でしたか?

我修院 一緒に録ってはいないです。パーツ録りして、後でミックスして整える。収録のはじめのほうは、木村さんや倍賞さんのパートは無音のことが多かったですかね。

『ハウルの動く城より』。ハウル役の木村拓哉をはじめ、ジブリ作品には多くの有名俳優や著名人が声の出演をしている

――おふたりとの掛け合いで苦労したシーンはどこでしょう?

我修院 〈ソフィー〉に褒められて、〈カルシファー〉が照れるところかな。こっちも照れていないと、そういうふうに聞こえないわけだよね。笑うにしても普通に「エヘヘッ、ヘッ、ヘッ」と笑うのと、「ンフッ、グフッ、ウフッ」と恥じらいを持った笑いは、違って聞こえてくるでしょう。

 首をかしげて笑うだけでも違うんですよ。なので、うんと照れて、「ンフフッ」と笑ったらオッケーが出ました。