「ギャンブル依存症」なのでは?
やがてお金が底をつき、悪い友人にそそのかされて盗みに手を出すようになり、警察の御用となった。出所後も仕事を転々とし、結局、パチンコ→窃盗の流れは断ち切れず、二度目の御用。その際に、新聞で報道されたことで、彼の罪が地元で広く知られてしまい、平穏な生活を送りたい兄妹から拒否され、今回の出所では家族が身元引受人になってくれなかった。マツオは典型的な再犯パターンであり、このまま放っておけば、さらにエスカレートしていくのは、火を見るより明らかだった。
この生い立ちを聞いて、「ギャンブル依存症」という言葉が真っ先に私の頭に浮かんだ。たまたま1カ月ほど前に、『職親プロジェクト』の会合で、『ギャンブル依存症問題を考える会』の代表を務める田中紀子さんの講演を聞いたばかりだったからだ。
「依存症」には大きく分けて、「物質依存」と「プロセス依存」の2種類があるらしい。「物質依存」と聞けば、麻薬・覚せい剤などが思い浮かぶが、アルコール依存やタバコ依存もこれにあたる。「プロセス依存」は、ギャンブル依存、買い物依存、性依存などがあり、最近よく耳にする、ネット依存などもこれにあたる。「物質依存」は、本人も自覚していることが多いが、「プロセス依存」は、なかなか本人含め、周囲の人間も認知していることが少ない。ゆえに「治療」という発想になかなかたどり着かない。
マツオは、この「プロセス依存」にあたる「ギャンブル依存症」ではないかと、私は考えた。「プロセス依存」は本人が自覚していることが少ない。自覚することが克服への第一歩であることは知っているが、専門家でもない私が「お前はギャンブル依存症だ」と言えるわけもない。私は専門家に頼ることにした。
パチンコについて生き生きと話すマツオ
新大阪で出所したマツオと会った。
「どうや、外の空気は?」
「やっぱりおいしいです」
それからさまざまなことを話し、マツオに「お前、ギャンブル、パチンコやりたいか?」と聞くと、「やりたいです」と返ってきた。
5年前、朝から晩までパチンコをやってきたことを生き生きと話すマツオに、恐る恐る「この前、ギャンブル依存症のやつがいて、依存症の怖さと、その治療のやり方についての講演を聞いたんや。その講演をしていた人と話してみたいか?」と聞いた。すると、マツオは「話したい」と答えた。