昨年8月、福岡市の商業施設で21歳の女性が殺害される痛ましい事件が起きた。容疑者として逮捕されたのは、15歳の少年――。少年は女性客を施設内で盗んだ包丁で刺し、殺害したなどの罪に問われていたが、鹿児島家裁が「再非行の可能性が非常に高く、少年院で問題行動を改善させることは著しく困難」などと指摘。成人同様の刑事裁判を受けさせるべきとして検察官送致していたが、1月28日に殺人の罪などで起訴された。

 では、相次ぐ少年犯罪の根本的な理由は一体どこにあるのだろうか?

 児童精神科医である宮口幸治氏が、自身の少年院での勤務時代の経験をもとに、人口の十数%はいるとされる「境界知能」の人々や、気づかれない軽度知的障害に焦点を当てた『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治著、新潮新書)より抜粋して引用する。

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「丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか?」

 私は少年院で勤務するまでは公立精神科病院に児童精神科医として勤務してきました。 色々と思い悩んだ末に、いったん医療現場から離れ医療少年院に赴任したのですが、そこでは驚くことにいくつも遭遇しました。その1つが、凶悪犯罪に手を染めていた非行少年たちが、“ケーキを切れない”ことだったのです。 

 ある粗暴な言動が目立つ少年の面接をしたときでした。私は彼との間にある机の上に A4サイズの紙を置き、丸い円を描いて、「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか? 皆が平等になるように切ってください」という問題を出してみました。

 すると、その粗暴な少年はまずケーキを縦に半分に切って、その後「う~ん」と悩みながら固まってしまったのです。失敗したのかなと思い「ではもう1回」と言って私は再度紙に丸い円を描きました。すると、またその少年は縦に切って、その後、悩み続けたのです。 

 私は驚きました。どうしてこんな簡単な問題ができないのか、どうしてベンツのマークのように簡単に3等分できないのか。その後も何度か繰り返したのですが、彼は図2-1のように半分だけ横に切ったり、4等分にしたりして「あー」と困ったようなため息をもらしてしまいました。他の少年では図2-2のような切り方をしました。そこで、「では5人で食べるときは?」と訊ねると彼は素早く丸いケーキに4本の縦の線を入れ、今度は分かったといって得意そうに図2-3のように切ったのです。 

 5個に分けてはいますが5等分にはなっていません。私が「みんな同じ大きさに切ってください」と言うと、再度彼は悩んだ挙句諦めたように図2-4のような切り方をしたのでした。