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“殺人”を犯した少年たちは、なぜ「自分はやさしい人間だ」と答えるのか?

『ケーキの切れない非行少年たち』より

2021/02/13
note

「100から7を引くと?」正確に答えられるのは半数

 これらのような切り方は小学校低学年の子どもたちや知的障害をもった子どもの中にも時々みられますので、この図自体は問題ではないのです。問題なのは、このような切り方をしているのが強盗、強姦、殺人事件など凶悪犯罪を起こしている中学生・高校生の年齢の非行少年たちだ、ということです。彼らに、非行の反省や被害者の気持ちを考えさせるような従来の矯正教育を行っても、殆ど右から左へと抜けていくのも容易に想像できます。犯罪への反省以前の問題なのです。またこういったケーキの切り方しか出来ない少年たちが、これまでどれだけ多くの挫折を経験してきたことか、そしてこの社会がどれだけ生きにくかったことかも分かるのです。 

 しかし、さらに問題と私が感じたのは、そういった彼らに対して、“学校ではその生きにくさが気づかれず特別な配慮がなされてこなかったこと”、そして不適応を起こし非行化し、最後に行きついた少年院においても理解されず、“非行に対してひたすら 「反省」を強いられていたこと”でした。

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 こういった少年は他にも大勢いました。いつも少年たちへの面接では簡単な計算問題を出します。具体的には「100から7を引くと?」と聞いてみます。正確に答えられるのは半数くらいでした。 

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 多いのが「3」「993」「107」といったものでした。「93」と正しく答えられたら次は、「では、そこからさらに7を引いたら?」と聞いてみます。すると、もうほとんどが答えることができません。「1/3+1/2は?」と尋ねると殆どの少年たちが予想通り「2/5」と返してきます。 

「これからは後先のことを考えて行動するようにしたい」

 基本的に「漢字は読めない」ことを前提に、少年院での教材には全てフリガナがついています。新聞にはフリガナは付いていませんので、新聞を読めない少年たちも多く、自由時間に新聞を順に回して閲覧できる機会もあるのですが、少年たちが見ているのはもっばら雑誌広告欄にある女性の写真ばかり、といった状況でした。 

 少年院の中ではこういった少年たちに漢字ドリルや計算ドリルをさせているのですが、大体小学校低学年レベルからのスタートです。最初から小学6年生レベルの計算ができればかなり優秀な方でした。 

 ルーチンの面接の中で、少年たちにどうして非行をしたのかを尋ねてみます。するとみんな、「後先のことを考えていなかった」と、口を揃えたかのような答えが返ってきます。そして、今後の目標として「これからは後先のことを考えて行動するようにしたい」と答えます。