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就労して5年、いまは仕事の鬼

「ギャンブル依存症」を克服したマツオは、その真面目な性格で、仕事に熱心に取り組んだ。働き出してからは、無遅刻無欠勤。8カ月後には保護観察期間が無事に終了、その半年後には、日之出塗装工業の正社員として採用した。保護司からの「毎月5万円積み立てするように」という指示を忠実に守ったうえに、実家へも仕送りをしている。ほぼ勘当状態だった実家から、帰宅も許されたのだ。マツオのことを心配し、ひそかに出口さんに様子を聞いていた母親は、さぞかし喜んだことだろう。

 まもなく就労して5年が過ぎようとしている。マツオはギャンブルをいっさいしていない。とはいえ、どうもマツオは一つのことに集中しすぎるタイプらしい。いまは「仕事依存症」になってしまった……と、冗談で言われるくらい、仕事の鬼みたいになっている。生活費以外、ほとんどお金を使わないので、貯金額がすごいことになっていた。その額を見て驚いた私が「仕事ばっかりじゃなくて、もっと遊べよ。気分転換も必要やで」と心配すると、「どうやって遊んだらいいかわかりません」という返事が返ってきた。「パチンコでもやったらええやん」とは、冗談でも言えなかった。

©iStock.com

 マツオは、現在、少年院内での職業訓練も手伝ってくれている。入院者の前で塗装を実演して見せたり、少年たちを熱心に手ほどきする様子を見て、彼も『職親プロジェクト』を支える一人になったような気がした。

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「ギャンブル依存症」の得体の知れない怖さ

 これまで紹介したように、マツオの性格は非常に真面目である。そしてやさしく、気が弱いところがある。決して犯罪をするようなタイプではない。それでも罪を犯し刑務所に入った。二度も。私はマツオの勤勉な姿を見るたびに「ギャンブル依存症」の得体の知れない怖さを感じる。「ギャンブル」がしたいがために、人のものを盗む。押し寄せる欲望と、お金がないという現実に勝てず、犯罪に手を染めてしまう。

 この「依存症」という病気は、一般的に理解や関心が低く、認知されていない。以前、私が考えていたように、「意志が弱いからだ」「気合いと根性で治る」なんて言葉で、片付けられてしまいがちだ。しかし、本人も、その周囲の人々も、病気のことをきちんと知り、「病気」として「治療」を施せば、必ず回復する。再犯どころか、初犯を起こさせないで済む。逆に言えば、「治療」という根本的解決をしない限り、再犯を繰り返し、やがて凶悪犯罪につながっていくのだ。