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あなたをギャンブル依存症と認定します

 以前に『ギャンブル依存症問題を考える会』の田中さんと話をしたことがあった。田中さんは、ギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持ち、いまはその経験を活かして、依存症に苦しむ人たちの助けになろうと活動している。電話で相談したところ、「ぜひ一度直接マツオに会って話がしたい」と、わざわざ東京から来てくれることになった。マツオのほうも一度会ってみたいとのことだった。

 田中さんが来て、マツオと食事をしながら話してもらった。私と会長も同席した。やはり、マツオはギャンブルが好きなんだろう。本当に楽しそうに話をする。田中さんとの話もものすごく盛り上がっていた。まったくギャンブルをしない私にしたら、パチンコやスロットの用語が出てきてもまったくチンプンカンプンだったが、マツオは、出会って初めて心から楽しんでいる表情をしていた。

 話を聞いて、私もまた「依存症」に対する考えを改めることとなった。それまで自分なりに勉強はしていたが、それでも心のどこかでは、「依存症なんか大袈裟にゆうて。ほんまに止めたいんやったら、気合いと根性で止めれるやろ」という思いがあった。しかし、どうやらそうではないらしい。「依存症」はれっきとした病気であり、「治療」が必要なのだ。そもそも気合と根性で治るものに、病名はつかない。

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 田中さんが最後に「あなたをギャンブル依存症と認定します」と言ったら、マツオは「俺って、依存症だったんですか」と背中をイナバウアーのように反らして驚いた。ギャンブルから抜け出せない生活を5年も繰り返していたにもかかわらず、その自覚がなかったのである。

「ギャンブル依存症」から「ギャンブル恐怖症」へ

 わずか2時間あまりの面談で、マツオは自分の問題と初めて向き合い、はっきりと自分が「ギャンブル依存症」だと自覚したのだった。

「プロセス依存は、自分が依存していると自覚することが、回復への第一歩」だと言われている。しかし、マツオの場合は、その第一歩がそのまま回復につながったようだ。彼はそもそも気が弱く、真面目な性格だ。田中さんに会いたいと思ったのも、パチンコを我慢する方法を教えてもらえると思ったからだった。「したい」という気持ちと「してはいけない」という気持ちの間で戦っていたのだ。それまでは「してはいけない」と必死に気持ちを抑え込んでいたが、「病気」だと診断されることによって、「したい」という気持ちに恐怖を感じるようになった。「してはいけない」が「するのが怖い」となった。「ギャンブル依存症」から「ギャンブル恐怖症」に変わったのだ。