大切な妹を殺されたという壮絶な過去を持ちながらも、元受刑者を雇い入れ、就労支援を行う「職親プロジェクト」に携わり始めた草刈健太郎氏。彼が雇い入れる受刑者はどのような人物で、どのような働きをしているのだろうか。
同氏による著書『お前の親になったる 被害者と加害者のドキュメント』(小学館集英社プロダクション)を引用し、窃盗の再犯で逮捕されていた元受刑者のエピソードを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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マツオタダアキ(仮名)は、『職親プロジェクト』3年目の春に社会復帰促進センターから引き受けた。面接した当時、彼はすでに20代の後半で、少年院ではなく、刑務所に入っていた。最初の印象は、「こいつ大丈夫かいな」だった。
自信のない「頑張ります」の返事
「犯罪者」と聞いてイメージするような、目つきがヤバい、顔色が悪いといった類のものではなく、声が弱々しく、なよなよして頼りなかったからだ。パッと見の印象は、地味なタイプ。いじめっ子ではなく、いじめられっ子といった感じだ。こんな男がなぜ刑務所にいるのか、頭に血がのぼり見境がなくなって罪を犯してしまったのだろうかなどと想像を巡らせていると、彼の口から出たのは、「窃盗」の二文字だった。理由は「金がなかったから」。何か深い事情があるのか、それともないのか? 面接の終わりに私が彼に言ったのは、「いまのお前を見ていると、仕事が務まるのか不安や」だった。マツオの自信のない「頑張ります」の返事で面接は終わった。
個人情報保護の問題で、刑務所からは、受刑者の罪状や生い立ちなどは何も教えてもらえない。事前知識もなしに、2時間の面接でわかり合おうなんて無理な話である。なんとかならないかとお願いすると、女性の刑務官が、彼の罪状や生い立ちを紙に書いて持ってきてくれた。その紙を受け取ろうと手を出したら、「これを渡したら、私はクビになってしまいます」と、口頭で読み上げてくれた。
マツオは、ごく一般的な家庭に生まれ育った。私が少年院や刑務所でよく聞いた、親が蒸発したとか、DVを受けていたなどといった、問題のある家庭に育ったわけではなく、特にグレていたというようなこともないようだ。高校卒業後、造船会社に就職し、同僚からパシリのように使われる。ストレスからか、たまたま友人に誘われたパチンコにハマり、次第に仕事そっちのけでパチンコばかりするようになる。朝9時から夕方5時まで毎日入り浸った。そんな生活を5年にわたり続けていた。