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元受刑者を預かる職長に特別手当を

 マツオを受け入れた頃から、私は、元受刑者を預かる職長に特別手当を出すようにした。『職親プロジェクト』はそもそも私の独断で参加を決めた。最初は「軽い気持ち」だったことから、ろくに社員に説明もしていなかったのだ。だから、なかなか現場の理解も得られなかった。もちろん、職長に無理やり預けるわけではなく、ちゃんと話し合い、理解を得てはいたが、それでも日々、一緒に過ごしていれば不満や苦労が積もっていくことだろう。それに、職長がいくら頑張ってくれても、彼らが逃げ出したり、相性が合わずにドロップアウトしたりしてしまうと、それがどんなに仕方のない理由であっても、職長の心が折れてしまう。そこで、元受刑者を引き受けてくれた職長には特別手当を出し、完全に「仕事化」することにした。

 マツオは熊谷(くまがい)職長に預けた。彼は、マツオの面倒をしっかりと見てくれた。マツオが朝が弱いと聞いて、毎朝迎えに行った。仕事中も気にかけてくれ、マツオをしっかりと育ててくれた。また、真面目なマツオもそれにしっかりと応えた。出所時には刑務官に「2週間も持たないと思います」と言われたマツオが、無遅刻無欠勤で働き続け、正社員にまでなれたのは、熊谷職長の支えがあったからだ。のちにマツオは「熊谷職長じゃなかったら、僕は続いていなかったと思います」と言っていた。

 そうしてマツオは、熊谷職長からの愛情に応えるように、一生懸命頑張り、めきめきと力をつけた。そして、熊谷職長が率いる班は、大幅に業績をアップさせた。我が社では、業績アップに対して報奨金を出し、班に還元することにしている。熊谷班は、見事、報奨金を得た。マツオが戦力になることで、班のメンバー全員が潤ったのだ。

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 この成功例は、職長ら社員たちの『職親プロジェクト』に対する考え方や取り組む姿勢を変えた。それまでは、「やっかいごとを押し付けられる」と考える職長もいただろう。しかし、いまは手当も出る。しっかり育てれば、大きな戦力になる。

「ダメでもともと、しかし成功すれば大きなリターンが得られる」という考えが一気に広がった。「社長、俺に任せてくれたら面倒見ますよ」と自分から名乗り出てくれる職長も出てきた。ちょうどヤマモトも、現場で戦力になりつつある頃だった。

 マツオがいい流れを作ってくれた。

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