元受刑者を雇い入れ、就労支援を行う「職親プロジェクト」に携わることになった草刈健太郎氏。彼には大切な妹を殺されたという悲しい過去があった。社会復帰の手助けとはいえ、元受刑者を前に冷静な気持ちでいられるのか、あの地獄のような日々を思い出し、再び犯罪者への憎悪に支配されてしまうのか……。
ここでは、同氏が「職親プロジェクト」を通じて得た経験、そして活動を通じての葛藤をまとめた著書『お前の親になったる 被害者と加害者のドキュメント』(小学館集英社プロダクション)を引用。初めて犯罪者と対峙した瞬間の思いを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
中井さんが私を誘い入れた『職親プロジェクト』は、もともと「日本財団」の企画だった。日本財団とは、自らがソーシャルイノベーションのハブとなり、「みんながみんなを支える社会」の実現を目指している公益財団法人だ。競艇の収益金をもとに、子ども支援、障害者支援、災害復興支援などを行っている。
少年院の出院者、刑務所の出所者がまた罪を犯してしまう「再犯率」が上昇傾向にあるため、日本財団は2010年頃から、元受刑者の就労支援を新たな事業にできないか検討を始めていた。そこで、元受刑者を雇用して更生につなげた実績のある、「千房」の中井さんに協力を仰いだ。そのことが発端となり、中井さんを発起人として『職親プロジェクト』が立ち上がったのだ。
中井さんが、知り合いの経営者数人に声をかけようとなったときに、幸か不幸か私の名前が真っ先に浮かんだという。
再犯を防止することが犯罪全体を減らすカギ
草刈家の教えとJC(編集部注:日本青年会議所)での教えをミックスして得た私の信条は「よいと思ったことを頼まれたら、『ハイ! 喜んで!』と受ける」である。この信条でやってきたからこそ、多くの人と強いつながりを持つことができたと思っている。そんな私の口から、中井さんへ「できません」なんて言葉は、出せなかった。
『職親プロジェクト』の参加企業が集まって、何度か会合が開かれた。立ち上げ当初の2012年、法務省の『犯罪白書』によると、1年間の刑法犯の検挙人数は約28万7000人。うち再犯者数は約13万人。検挙人数全体の45%を占めている。つまり、いまの日本では再犯を防止することが犯罪全体を減らす大きなカギとなる。この取り組みは、社会貢献として意義のあることだと思った。そう思いはしたが、やはり「加害者支援」という言葉には、どこか釈然としないものがつきまとっていた。
人手不足の解消にもなるし、社会貢献にもなるし、ビジネスチャンスにつながるかも、というポジティブな言い訳を用意して、“とりあえず”参加することにした。