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再認識させられた心の大きな傷

 どうしても妹を殺したチェイス(編集部注:筆者の妹福子さんを殺害した男性。現在はアメリカで服役している)と、目の前で労働している受刑者たちが重なってしまう。あいつも、こんな感じで日々の生活を送っているのだろうか。私は心底腹が立ってきた。この受刑者たちは知っているのだろうか? 自分たちが生み出した被害者とその家族たちが、心の傷に苦しみながら生活していることを。

 一方、被害者たちは知っているのだろうか? 自分を苦しめる元凶である犯罪者たちが、こんな恵まれた環境で生活していることを。

 私はトイレで悔し涙を流した。そして、妹の事件が、いまだに私の心に大きな傷として残っていることを再認識した。

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 本意だろうが、不本意だろうがプロジェクトに名を連ねている以上、少年院や刑務所見学会には参加しないといけないし、面接、採用、その後の働く場や住む家の段取りなどを整えておかないといけない。

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 所内を一通り見て回ったあと、講堂にて受刑者への会社説明会が行われた。各参加企業が、会社や業務内容を説明し、受刑者からの質問に答えた。その後、各自が自社の仕事を希望した受刑者と面接を行うという流れになっていた。ちなみに、この面接で条件が合えば内定を出し、出所後、会社で用意した部屋に住まわせ、まずは契約社員として働いてもらうことになる。

 私の経営するカンサイ建装工業の場合、建設管理の業態なので、一級建築士などの資格が必要となる。一方、塗装会社の日之出塗装工業であれば、資格は必要なく、「O・J・T(オンザジョブトレーニング)」で働きながら職人の技術を身につける業態なので、こちらのほうが何かと都合がいいと考え、日之出塗装工業で採用することにしていた。

犯罪者と初めて対峙

 ここで私が面接したのは二人。考えてみると、犯罪者と対峙して話すのは初めてだ。このときは、テレビの取材カメラが入っていたので、平静を装ってはいたが、実は心中穏やかではなかった。どんなやつが来るのだろう……。

 面接した印象としては、二人とも覇気がない。なんというか、エネルギーというか、パワフルさを感じなかった。出所して働き出すまでまだ間があるが、大丈夫だろうか。働き出しても、すぐに音(ね)を上げてしまうのではないか。そんなことを思った。刑務所にいるやつなんて、みんな目つきの悪いギラギラしたやつばっかりだろうと思っていたので、拍子抜けだ。

 そんなことを、『職親プロジェクト』の仲間たちと話していると、みんな同じような印象を持ったらしい。そこで、以前から就労支援をしている中井さんや日本財団のスタッフ、施設の人などと話していると、いまの時代の受刑者たちの姿が見えてきた。