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全身にゾゾゾゾゾっと鳥肌が…

 すると、一緒に放送を見ていた中井さんが、驚いたように目を丸くしながら、ポツリと言った。

「……草刈君、そんなことがあったんか!」

「え? 中井さん、知らんかったんですか?」

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「ごめん。まったく知らんかった……」

 妹の事件は、友人・知人はみんな知っていた。だから、当然、中井さんも知っていると思っていた。ところが、中井さんは知らなかったらしい。知らずに私を『職親プロジェクト』に誘ったのだ。

「知らなかったとはいえ、ごめんな。受刑者と話したり刑務所を訪問したりなんか、辛かったんちゃうか? 無理にお願いしたから、断れんかったんちゃうか?」

 全身にゾゾゾゾゾっと鳥肌が立った。

 もしかして中井社長が事件のことを知っていたら、俺は『職親プロジェクト』に誘われてなかったんちゃうか? 犯罪者について、何も知らないまま、ただ憎む対象としてしか考えずにいたんとちゃうか? 「被害者を救う方法」ばっかり考えて、「被害者を減らす方法」なんて、考えもせんかったんちゃうか?

平和に日常生活を送っている誰かを「守る」

 偶然と偶然が重なって、つながりがつながりを生んで、気づけば、被害者遺族である自分が、加害者を支援する立場に立っている。被害者のことだけではなく、加害者についても考えている。なんや、この巡り合わせは? なんでや? と、考えたとき、また一つの考えが頭をよぎった。

「福子が導いたんちゃうか? 福子が、やれ!って言ってるんとちゃうか?」

 カンボジア、東日本大震災のことが頭の中を走馬灯(そうまとう)のように巡り、うまく説明できないが、何か果てしない、「命のつながり」を感じた。そしてこのときもまた、近くに福子の存在を感じた。福子の「私のような被害者を一人でも減らすように頑張って」というメッセージなのか。

 私は思い出す。福子が殺されて、「なぜ、守ってやれなかったのか」と悔やんだ日々を。そう、私は知っている。残された人たちが、「なぜ、守れなかったのか」という辛い後悔に囚われることを。

“犯罪者”を更生させて、再犯を防止する。凶悪事件が起こる前に、悲劇を未然に防ぐ。少なくとも、可能性を少しでも減らす。平和に日常生活を送っている誰かを「守る」。それが私の「使命」、いや、「担い」なのだ!

 私の心は決まった。

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お前の親になったる―被害者と加害者のドキュメント (ShoPro Books)

草刈健太郎

小学館集英社プロダクション

2019年10月10日 発売