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 中井さんの電話から約3カ月後の2013年2月28日、『職親プロジェクト』は、中井さん、私の他、「串かつ だるま」(株式会社一門会[いちもんかい])、焼き肉「但馬屋(たじまや)」(株式会社牛心[ぎゅうしん])など計7社と日本財団が協定書を交わすという形で正式に始まった。5年間で100人の社会復帰を支援する目標を掲げた。大阪市内のホテルで行った調印式には、マスコミ関係者も来てテレビや新聞で報道され、当時の谷垣禎一(たにがきさだかず)法務大臣は「法務省としても積極的に協力する」との見解を表明した。『職親プロジェクト』が大々的に注目され、私は、「こんな派手にやられてもうたら、辞めにくいやないか。しっかりとした理由考えな」などと、「いかに後腐れなく辞めるか」ばかり考えていた。

 調印式の翌週、プロジェクトのメンバーは、山口県美祢(みね)市にある「美祢社会復帰促進センター」を訪ねた。ここは、刑務所に入るのが初めての、いわゆる「初犯」の受刑者が服役している。『職親プロジェクト』は、こうした刑の軽い受刑者を収容する刑務所や少年院で、募集、採用することにしていた。初犯の受刑者や少年院の入院者は刑事政策の世界では「犯罪傾向が進んでいない」という言い方をする。要するに、まだ凶悪犯とか極悪人とか言われるようなワルのレベルにはなっていないので、更生の余地が大きいということだ。

暗いイメージとはほど遠い小綺麗な施設

 行ってみて驚いたのは「刑務所」という暗いイメージとはほど遠い小綺麗な施設だったことだ。居室スペースはいわゆる雑居房ではなく個室。机にベッドにテレビまである。このセンターは「コンクリート塀や鉄格子のない刑事施設」というコンセプトで建てられており、受刑者の生活を一般社会と近い環境にしているのだ。

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 昼間は職業訓練を兼ねた労働をしている。民間企業と違ってブラック残業などないし、やることも基本的な単純作業で、かつ安全は確保されている。贅沢ではないものの栄養バランスのとれた食事が1日3回、必ず提供される。私たちが見学に訪れた際も、マスクの着用が指示された。理由は「風邪の菌を持ち込まないように」だ。

 自由こそないが、反対に飢え死にや、凍死、熱中症の心配もないし、残業による過労死リスクもない。こんな快適な生活が保障されていたら、刑期を終えて出所しても

「もう二度と刑務所に入りたくない」という心境になるわけがない。

「えらいええ生活してるやないか」「こんな楽な生活をしていて、職業訓練なんか、真剣にやるか?」「なぜ刑務所で罰を与えて更生させないんや。本末転倒やないか」、これが私の抱いた率直な感想だ。