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リビジョニズムは必然なれど

 スペインでは、学校図書館から『眠れる森の美女』や『赤ずきんちゃん』などの童話を撤去する動きが進んでいるという。性的分業観やジェンダー意識を植えつけるおそれがあるからというのが理由だ。並行して、BLM運動の隆盛とともに、欧米では白人中心史観やユーロセントリズム(西欧中心主義)にも批判の矛先が向けられている。コロンブスやレオポルド二世の像が破壊されたり米南部の地名変更が議論されたりと、植民地支配や奴隷制に関する「負の遺産」を見直す動きが進む。

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 過去はまったく完結していない。フェミニズムやポストコロニアリズムの流れで、字義どおりの意味におけるリビジョニズム(歴史の見直し)が今後も広がっていくことは、必然だろう。それは、これまで無視し抑圧してきた「他者」の存在を回復することでもある。

 しかし、「政治的な正しさ」だけを追い求めることは、独善のまどろみに陥る危うさを常に抱えている。

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 なにごとによらず疑いの精神は必要だが、十分ではない。疑いの精神そのものを疑うことになれば、退歩しかない。

注釈
☆1 2018年11月以降、金融商品取引法違反容疑など4件で逮捕・起訴された日産自動車前会長のゴーン被告が、海外渡航禁止の保釈条件を破り、翌年12月29日、関西空港からレバノンに逃亡。翌々日、日本の司法制度を「有罪が前提で、基本的人権が否定されている」などと批判する声明を発表した。
☆2 法務省の定義によれば「特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの一方的な内容の言動」を指す。2016年5月24日にいわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が成立し、同年6月3日に施行された。
☆3 2015年1月7日、イスラム過激派とされるアルジェリア系フランス人の兄弟が預言者ムハンマドを風刺したパリの週刊新聞「シャルリ・エブド」編集部を襲撃し、風刺漫画家や記者ら12人を殺害。8日には、連携した男も警察官を殺害して逃走。9日、立てこもった兄弟と男が射殺され、その際に人質4人も犠牲になった。テロを非難する市民の行進は370万人にも及んだ。
☆4 厚生労働省の定義によれば「職場におけるセクシュアルハラスメント」には「対価型」と「環境型」がある。「対価型」は、労働者の意に反する性的な言動に対して、その労働者が拒否や抵抗をしたことにより、解雇、降格、 減給、労働契約の更新拒否などの不利益を受けること。「環境型」は、労働者の意に反する性的な言動により、その労働者の置かれる就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、看過できない支障が生じることを指す。
 

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