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印象派の先駆けとしてのコンスタブル

 アカデミーの指針に従い決まり事に沿って描けば、樹木はこうで、雲はこう表現すればいいなどと、比較的楽に絵を完成させられたはず。けれどコンスタブルは、そうしたマニュアルに則るつもりがまるでなかった。伝統や流儀、先人のやり方など気にせず、自分の見たものだけを信じる態度を貫いた。

 サフォークの田舎に生まれ育った彼には、きっと確信があったのだ。創造性の源泉はいつだって、人間を取り囲む自然にある。絵を描くにあたっても、自然に従い学ぶのが最善手だと。

 それで、戸外において制作のほとんどを進めて絵を完成させてしまう手法も、いち早く取り入れた。自然の中に分け入り、自分の見たまま感じたままをすばやく捉えて絵に定着させていく。コンスタブルが確立した描き方と考え方は、数十年後に印象派絵画が花開く基盤を用意したとまちがいなく言える。

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ジョン・コンスタブル《チェーン桟橋、ブライトン》1826-27年、油彩/カンヴァス、127.0×182.9cm、テート美術館蔵 ©Tate
ジョン・コンスタブル《デダムの谷》1805-17年、油彩/カンヴァス、52.8×44.8cm、栃木県立美術館蔵

 頑固に自分を貫いたひとりの信念が、美術の歴史を大きく動かすこととなったのだ。その軌跡を、展覧会場でじっくり確かめてみたい。