英国の田園風景といえば、素朴だが豊かな「佳きもの」というイメージが固まっている。
そうした好印象をかたちづくる素となったのが、19世紀前半に活躍したコンスタブルの風景画である。
英国美術史に名を残す画家の全貌をたどる展覧会が、東京丸の内の三菱一号館美術館で開催中だ。「テート美術館所蔵 コンスタブル展」。
異端だった「風景画家」
コンスタブルの絵画は、どの年代に描かれたものも、見るからに清々しい。たとえば画家が40歳前後で手がけた《フラットフォードの製粉所(航行可能な川の情景)》の画面は、こんな様子だ。
細やかな筆致で表された生い茂る葉群れが、微風に揺れ動いているように見えてまずは目を惹く。その下を行くいかにも清涼な小川の流れを追って視線をさ迷わせていくと、途上に荷船が浮かんでいる。川べりの草地に陽が落ちており、その光がどこからくるのかと顔を上げれば、広い空に白い雲がモクモクと湧いて、適度な湿度を感じさせる。
のどかで生き生きとした、土地に根ざした人々の暮らしがここにある。まあ現代の目からすれば少々保守的ではあるけれど、すべてが好もしく感じられる。
しかし、これが描かれた当時の受け止められ方は、ずいぶん違ったらしい。コンスタブルという画家は、「革命児」とまでは言わぬものの、なかなかの跳ねっ返りだったのだ。
というのも彼の画風は、いくつかの点で絵画の規範を大きく逸脱していた。