日本の論文数はこの10年で低下し、世界9位
文部科学省が発表している「科学技術指標2020」によれば、日本の研究開発費は総額17.9兆円(2018年)で、対前年比で2.3%とわずかながらに伸びていますが、トップのアメリカのそれは60.7兆円であり、対前年比も5.1%と伸張しています。それに迫っているのが中国で、研究開発費は58兆円、伸び率も10.1%となっています。
ただでさえ日本では、博士課程の在籍者が減少しています。その上、国際的な地位も低下していると言わざるを得ません。2016~18年にかけて、自然科学系分野で中国の論文数がアメリカを抜いてトップに立っています。注目度の高い論文数も、アメリカのシェア24・7%に肉薄する22%と、トップ2と呼べるほどの成果を上げています。かつては査読をしていても、中国やシンガポールからの論文は玉石混交で、正直に言って「どうしてこの段階で論文にしちゃったんだろう?」と思うようなものもあったのですが、今は明らかに変わりました。世界はこうしてレベルアップしているのです。
いま、実際にものすごく優秀な学生を国際物理オリンピックに送り込んできているのは、やはり中国です。大会で満点近い成績を取るような高校生が、どんどん出てきています。翻って、日本は論文数世界9位、注目論文のシェアは2.5%になってしまいました。この10年で順位も、シェアもかなり下げてしまい、イタリア、フランス、カナダといった国にも追い抜かれています。過去に日本がトップを走っていた研究分野でも、他の国々に追い抜かれてしまっている。日本はいまだにノーベル賞学者を頻繁に輩出しているし、これから受賞が見込めそうな候補者も少なくない数いますが、その対象となる実績はいずれも過去20~30年、もっと前の業績ばかりです。今から20年後や30年後、同じように実績を持つ科学者がノーベル賞受賞を待っているという状況は、考えにくくなっています。
今後、「日本に生まれた科学者は、海外に行かなければ研究ができない」という状況が本当に良いのかは、いよいよ考えなければいけません。世界に挑戦することは素晴らしいことですが、日本に充実した研究環境がないというのは別の問題です。将来の重要な発見ができたかもしれないのに、環境に恵まれなかったがために博士課程を諦める、あるいは研究者を諦めるという学生も少なくないのです。
チャンスすら与えられないのでは、人材は育成できません。僕にできることは限られますが、少なくともこの大会は大いに盛り上げて、成功にもっていきたいと思っています。「世界にどのくらい同世代のライバルがいるか、考えたほうがいい」と言ったのは父ですが、今の日本の高校生にとって、この大会は世界のトップがどこにいるのかを知る、いい機会になるでしょう。