2017年以降強まった“物言う株主”による東芝経営陣への攻撃
これまでの経緯を簡単に説明しておこう。海外原発事業の失敗などで巨額損失を計上した東芝は2017年、債務超過を回避するため6000億円の増資に踏み切った。増資を引き受けた海外の株主の中には、多くのアクティビストが含まれていたが、背に腹は代えられない状況だった。
予想通り、物言う株主は東芝経営陣への「攻撃」を強めていく。その一つが「村上ファンド」の流れを汲むエフィッシモ・キャピタル・マネジメント(シンガポール)による「2020年株主総会が公正に開かれたかどうか調査せよ」という株主提案だった。同総会では一部の株主が期日前に郵送した議決権がカウントされておらず、東芝の総会運営の公正さに疑問が持たれていた。
東芝は「総会の運営に問題はなかった」と主張したが、3月18日に開かれた臨時株主総会では、エフィッシモの株主提案が賛成多数となり、独立の弁護士による調査が始まることになった。上場企業の最も重要な意思決定の場である株主総会で不正があったことが発覚すれば、車谷氏ら経営陣のクビは間違いなく飛ぶ。この時点で既に車谷氏の社長の座は風前の灯だった。
車谷氏は「東芝のCEOとして不適格」という判断
12人で構成する東芝の取締役会は、車谷氏と綱川智氏を除く10人が社外。CEO(最高執行責任者)ら会社の執行部で株主の利益を増やす方向で経営しているかどうかを取締役会が監督する米欧型になっている。永山議長をはじめとする取締役会メンバーは藤森氏との不適切な関係に代表されるガバナンスに対する車谷氏の脇の甘さと、確固たる成長戦略を打ち出せない経営者としての能力に疑問を持ち、アクティビストとの円滑な対話もできない車谷氏に対し「東芝のCEOとして不適格」という判断に傾いた。
そして4月6日、永山氏らは車谷氏に前述のように事実上の「辞任」を勧告する。その晩、西麻布の件のバーでは、額を寄せ合って話し合う車谷氏と藤森氏の姿が目撃されている。そして次の日の朝、日経新聞の一面を飾ったのが「CVCから東芝への買収提案」というスクープ記事だった。