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 そう思いながら進むと、「臥龍山登山道」という道路案内の標識があった。キノコ狩りやハイキングに訪れる人も多いというが、高尾山や箱根のような観光地とは、だいぶ印象が違う。知る人ぞ知る観光スポットなのだろう。その道路案内の方向に目を向けると、ラクダのこぶが幾重にも重なったような姿の山が見えた。それが臥龍山だ。その名の通り、竜が臥しているような山容であった。

登山道入り口の案内板 ©谷口雅彦

 標識に従い、細い道を右折してしばらく行くと、「臥龍山」と書かれた小さな立て看板。林道の入り口だ。そこを進むと、鮮やかな黄緑色の葉をつけたブナの木々が目に飛び込んできた。その光景は、息を飲むほどの美しさだった。

臥竜山入り口 ©谷口雅彦

 自然が豊かな反面、周囲に民家も街灯もなく、退避所でしか車がすれ違えないほど幅の狭い林道は、通りすがりで入るような道ではないように思えた。だが、平日の昼の山奥であるにもかかわらず、すれ違う車が意外にも多い。ここはブナの原生林として密かに人気を集める山なのだそうだ。我々が訪れたのは初夏だったが、遺体が発見された11月は紅葉のピーク。さらに人の多い時期だったに違いない。それなのに、なぜ、このような場所に遺体を遺棄したのかという疑問が湧いてくる。

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発見現場へ

 頭部発見場所付近の車回転場は、想像したよりも広いスペースだった。その場所には「雪霊水」と書かれた湧き水の汲み場がある。これを汲みに来る人も多いという名水なのだそうだ。飲んでみると、非常に冷たくて甘みのある水だった。すれ違った車の目当ては、この水だったのかもしれない。

車回転場にある「雪霊水」の水汲み場 ©谷口雅彦
遺体発見場所。写真右側の車回転場の下方10m辺りで被害者の頭部が発見された ©谷口雅彦

 遺体の頭部が発見された場所は、その回転場から崖下10mの地点と当時の新聞にあったが、そこは崖といっても、垂直に切り立った断崖絶壁ではなく、人が下りていける斜面だった。樹木も生い茂り、秋になれば、その木の根元にキノコが自生する光景が目に浮かぶような場所だ。ちなみに胴体が発見されたのも同じ車回転場付近。頭部が見つかった場所から70mほど北東の位置なのだが、ここも似たような光景だ。キノコ狩りに来た人が発見したのも頷ける。山奥まで運んできたにもかかわらず、このような、すぐに見つかる場所へ遺体を遺棄した犯人の意図が、ますます分からなくなってきた。

写真:谷口雅彦

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「週刊大衆」編集部

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