自動車マーケットにおける「SUV(*1)ブーム」が止まらない。一体、SUVの何がそれほど消費者を惹きつけるのか。

*1 sport utility vehicle(スポーツ用多目的車)の略。車体が高く、2BOXデザイン(エンジンルームと居住・荷室スペースの2つのブロックからなる構造)を採用した車種全般を指す。オフロード性能に特化した「クロスカントリー」と、舗装路走行を前提とした「クロスオーバーSUV」に大別される。

 90年代から2000年代にかけての「ミニバンブーム」とは異なり、SUVブームは説明しがたい現象だ。ミニバンであれば「利便性」という明確な利点があるが、SUVにはそうしたポイントが見当たらない。SUVといえばかつては「悪路走破性」だったが、現在の売れ筋モデルはその点も特段優れているわけではないのである。

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一過性と思われたSUVブームだったが……

 SUVの乗用車販売台数が急増したのは2014年であり、当時はこのブームが一過性のものだと考えられていた。前年からの増加分である約15万台のうち、10万台近くを新車種のホンダ・ヴェゼルが占めていたし、人気車種のトヨタ・ハリアーがモデルチェンジにより6.5万台を売り上げていたから、SUVの台数増加は「特定車種のヒット」で説明しうるものだった。

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 ところがその後、SUVは一大ジャンルとして確固たる地位を築くことになる。

 2020年の販売台数は10年前の3倍にも膨れ上がり、市場シェアの25%以上を占めている。一方、国内市場でもっとも強力なジャンルであり続けてきたミニバンは29%程度であるから、もはやSUVは車選びのスタンダードになりつつあると言っていい。

 このブームに乗じ、自動車メーカー各社はSUVのラインナップを拡充し続けており、さらにはEVのコンセプトモデルにおいても、日産のアリアや、レクサスのLF-Z、トヨタが上海モーターショーで発表したbZ4X(ビーズィーフォーエックス)など、ことごとくSUVタイプを採用している。「新時代の看板」として、SUVは位置づけられているわけだ。

 SUVが「新たなスタンダード」となるからには、そこに「消費者が選ぶ明確な理由」を見出せないはずがない。利便性ではミニバンに劣り、走行性能ではセダンに劣るSUVの魅力は、一体どこにあるのだろう。

「なんちゃってSUV」が天下を取った

「何がよくてSUVを選ぶのか」という疑問は、しばしば言外に「SUVなど格好だけではないか」という否定的なニュアンスを伴っている。悪路に強そうな見た目でありながら、走破性としては通常の車とさして違いのない都市型SUVのことを、「なんちゃってSUV」などと揶揄する声も聞かれる。

 もともと、SUVという区分は厳密なものではない。悪路走破性に特化したジープのラングラーや、トヨタのランドクルーザーといった「クロスカントリー」を指すこともあるが、現在主流になっているのは舗装路走行を前提とした都市型SUV(クロスオーバーSUV)であり、構造としては「普通の車の車体を上げたバージョン」と表現して差し支えないものだ。