「スペシャリティ」の空位を占めたSUV
バブルが崩壊し、90年代以降「スペシャリティ」のジャンルは衰退していくことになる。普段使いに適さない車をあえて購入できるのは、ごくごく限られた層になった。
ここで、空洞化する「スペシャリティ」に代わって登場したのが、1997年発売の初代ハリアーによって開拓された「都市型SUV」のジャンルだったと考えられる。セダンのヒエラルキーに属さず、ミニバンの所帯じみたイメージもなく、2ドアクーペやオフロード向け車種のような不便さもない。つまり、「スペシャリティ」の要素を「日常的に使える形」に落とし込み、「普通に使いたいけど、特別感もほしい」というニーズに応えたわけである。
世界的にも、都市型SUVはスペシャリティに立ち替わるジャンルとして成長してきた面がある。97年にメルセデスベンツが、2000年にBMWが都市型SUVを発売したのに加え、とくに象徴的だったのは、2ドアクーペを専門としていたポルシェが2002年にSUVモデル「カイエン」を発売したことである。それ以降、高級車メーカーは次々にSUV市場に参入し、2ドアクーペの専売特許であった「スペシャリティ感」は、都市型SUVにお株を奪われていく。
低価格帯でもSUVが売れるのはなぜか
とはいえ上述のような「スペシャリティ感」にもとづく説明は、SUVブームの一面しか捉えていない。プレミアムなイメージの有無があまり問題とならない普及価格帯においても、SUVは大ヒットしているからだ。
2013年発売のホンダ・ヴェゼルや、2014年発売のスズキ・ハスラーが爆発的にヒットしてから、コンパクトカーをベースに車高を上げた小型SUVは一つの定番となっている。こうした現象については「スペシャリティ」という切り口からではなく、もともとのSUVに付随していた「アウトドア性」や「アクティブ感」といったイメージから考える必要があるだろう。
もともと、都市型SUVが普及する以前には、SUVはアウトドア趣味に適したジャンルとして固定ファンを獲得していた。ランドクルーザーやパジェロほど悪路走破性に特化していなくとも、フォレスターやエクストレイルをはじめ、4WD性能を高め、車内を汚れにくい素材で統一するなどにより、キャンプやスノーボードに適した特性が与えられていたのだ。
このような「趣味の車」は、先の「スペシャリティ」とは方向性こそ異なるが、車格のピラミッドに位置づけられない点においては共通している。アウトドア路線のSUVは、「特定の目的」があるために、「そういう趣味の人なんだな」と納得されるわけである。