デメリットが価値になっている?
こうしてデメリットを並べてみると、おのずとSUVのユーザー層が見えてくる。SUVのデメリットは総じて「コスト面」と「育児・介護に向かない」ことであるが、これらは裏を返せば「生活感を周囲に抱かせない」ことを意味する。
すなわち、SUVに乗ることは、「些細なコストの違いを気にせず、また生活の必要にも縛られずに車を選べる余裕」を示すことになる。「コンパクトカーでは必要最低限の車を選んだと思われてしまうし、ミニバンの所帯じみた感じも嫌だし、セダンはそもそもオッサン臭い」というような、イメージ優先型のニーズに応えられるわけである。
とりわけミニバンに対しては、SUVユーザーの忌避感が色濃く表れる。SUV車種のオーナーが集まる掲示板では、同価格帯のミニバンを「ただの箱」「白物家電」と揶揄したり、そのオーナーを「家族のお抱え運転手」と哀れんだりする傾向が強い。
SUVはかつての「スペシャリティカー」のポジションに?
コストや乗降性といったデメリットが、翻って所有者の「生活感のなさ」を強調し、SUVの一つの「価値」として定着した。車にステータス性を求める時代は終わった、とする言説があふれるなかで、車選びにおいて「生活の必要性以上のもの」を重視する消費者も多いのだろう。
バブル期においては、「生活の余裕」や「精神の自由」をアピールするための車として、「2ドアクーペ」が流行した。プレリュードやソアラなど、あえて不便な2ドア車に乗り、「デート専用車」として贅沢に使うことが、余裕や自由の表現であった。
こうした動向のなかで定着したジャンルが、「スペシャリティカー」である。確たる定義はないが、「利便性を度外視し、趣味性を高めた車種」を指し、内外装の高級感を重視した2ドアクーペをその筆頭とするジャンルだ。
「スペシャリティカー」の一つの特徴として、「車格のピラミッド」に位置づけられない点を挙げられるだろう。普通の車とは用途が異なる「趣味の車」であることにより、「庶民はカローラ、アッパーミドルはマークII、富裕層はクラウン」といったヒエラルキーに組み込まれることがないのである。