残された時間をどう過ごすのか
終末期のがん患者が人生の最後に持つ要望は様々だ。
以前取材した北陸地方のある民間病院では、病院スタッフが手弁当で終末期のがん患者の「最後の願い」を叶えるための取り組みをしていた。
その願いとは、お花見をしたい、お墓参りをしたい、行きつけの店で食事をしたい、パチンコに行きたい……。
中には当時開通したばかりの北陸新幹線に乗りたい、という望みを持つ患者もいた。その望みを叶えるべく、医師や看護師らがJRに相談し、列車に酸素ボンベを積み込んで一駅区間を往復し、患者の願いを叶えたという話も聞いた。その患者は新幹線に乗ったことに満足して、2週間後に穏やかに息を引き取ったという。
こうした望みを、愛する家族と一緒に叶えられたら、患者にとっての喜びはひとしおだろう。
「どこかに行く、何かをする、誰かと会う……。患者さんとご家族が同じ目標を持つことが重要。それが双方にとっての生きがいになるから」
しかし、がんの最後の病態を知らず、また患者の置かれた状況を理解できない家族の中には、「見た目が元気」ということもあり、抗がん剤治療の継続を要望したり、科学的な根拠のない民間療法などに踏み込んでしまう人が一定数いる。結果として、最後に残された貴重な時間を消費してしまうのだ。
「患者さん自身がそれを希望しているなら別ですが、多くは家族の意向が強く働いてしまっている。ただ、家族も善かれと思って、藁にもすがる思いでそうした判断をされるので、真っ向から否定することもできない。悩ましいところです」
残された時間を有意義に過ごすためにも、がんという病気から目を背けるのではなく、希望する最期を話し合っておくべきなのだろう。
ストレスの症状は人それぞれ
緩和ケアの技術が進んだ現在、がん性疼痛の多くはコントロールが可能になってきた。それは病院の緩和ケア病棟やホスピスなど専門の施設だけでなく、在宅でも苦痛の多くを取り除くことはできる。
一方で問題になるのが、家族にのしかかる大きなストレスだ。
「大切な家族が次第に弱っていく姿を見つめるつらさ、刻々と迫る別離への恐怖、そして介護によって積み重なる疲労――。こうしたストレスは決して甘く見ることはできません」
しかも、このストレスが引き起こす症状は、同じ家族でも違いがある。疲れが表面に出る人もいれば、内に閉じ込めてしまう人もいる。そのため、「私がこんなに苦しんでいるのに、息子は平気な顔をしている」などと考えて、軋轢が生じることもあるという。