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 そもそも「終末期」とは、手術や抗がん剤などによる標準治療が効果を示さなくなった状態を指す。現状の日本の健康保険制度では、ゲノム診断を経て臨床試験に進む道が残されているとはいえ、そこに進める確率はまだ低い。現実的にはこの時点で、人生の幕を閉じる準備に取り掛かることになる。

 長く一緒に暮らしてきた家族にとって、この状況を受け入れることは簡単ではない。というより、これは人が人生で経験し得る最もつらい決断であり、ここでうろたえない人はまずいないだろう。

 しかし、愛する家族の人生の最後を少しでも心安らかに過ごしてもらうためには、ただうろたえているわけにもいかない。そこで知っておきたいのが、鈴木医師の言う「最後の病態」なのだ。

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急激な変化が起こる「曲がり角」

「標準治療を終えた、つまり『これ以上の治療法はない』という段階に至った時点での患者さんは、見た目は元気なことが多い。しかし、その後数週間から数カ月経つと、急激に身体機能が低下することになる。こうなると残された時間は長くありません。それまで月単位で考えてきた余命を、週単位、日単位で考える必要性が出てきます」

鈴木央医師

 この「身体機能が急速に低下する時点」を、ここでは「曲がり角」と呼ぶことにする。曲がり角を曲がった患者は、ゴールテープを視野に捉える。

 鈴木医師の経験では、終末期と診断されて在宅に戻った患者が亡くなるまでの平均期間は2カ月ほど。しかし、全体の半数は約1カ月で亡くなっている。

 1カ月で亡くなる人も、曲がり角までの2~3週間は、見た目は元気なことが多い。

 鈴木医師は、「この期間を利用して、患者がやりたいことを実現したり、家族との思い出づくりにあててほしい」というのだが、中々うまく行かないことが多い。それは、家族がこの状況を正しく理解していない、あるいは理解できないほど悲嘆に暮れてしまうことによる。

「患者さんにやり残した仕事があるなら、この時期に集大成として仕上げることもあるでしょう。気丈な人なら自分がいなくなった後の指示を同僚や部下に伝えることもできます。もちろん、家族と短い旅行や食事に出かけることも可能です」

 しかし、そうしたことをするには、家族にも身近に迫った死を受け入れる覚悟が必要だ。その覚悟が持てないと、貴重な時間はあっという間に過ぎて、曲がり角に到達してしまう。