医学が進歩した現代では、不治の病が減って、寿命も大きく伸びた。延命治療も可能となり、多くの人が当然のようにその恩恵にあやかろうとしている。しかし延命治療は時として、大きな苦痛を伴うこともある。また「ピンピンコロリがいい」と言ってはみても、そんな理想的な死を迎えられるのは、ごくわずかの運のいい人だけだ。もしあなた自身やあなたが看取ることになる家族に「いい死に方」を求めるなら、しっかりした準備が必要だ。(全2回の1回目/後編を読む)

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映画で知る「在宅医療」と「平穏死」

 死について考えることを「縁起でもない」と感じる人もいるだろう。しかし「死に方」について事前によく考え、家族と話し合っておくことはとても大切なことだ。なぜ大切なのか、そしてどうしたら「痛くない、苦しくない死に方」ができるのかを教えてくれるのが、2月20日に公開になる映画『痛くない死に方』だ。

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在宅医・河田を演じる柄本佑 ©️「痛くない死に方」製作委員会

 この映画は、在宅医療のスペシャリストである医師、長尾和宏氏のノンフィクション書籍『痛い在宅医』、医学実用書『痛くない死に方』を原作とした劇映画で、監督は『TATTOO<刺青>あり』『愛の新世界』『光の雨』などで知られる高橋伴明。主演の柄本佑をはじめ、坂井真紀、余貴美子、大谷直子、宇崎竜童、奥田瑛二など、魅力的なキャストが多数出演している。

 柄本佑は、河田という若い在宅医を演じる。在宅医とは、病院に入院せず(あるいはがん終末期などで退院して)在宅療養することを選んだ患者の家を訪問し、診察・対応する医師だ。河田は高齢の末期がん患者・大貫を担当するのだが、緩和ケアに失敗し、苦しみながらの壮絶な死を迎えさせてしまう。亡くなった大貫の娘は悲しみ、自分が在宅医療を希望したせいだと自らを責め「私が父を殺したのか」とまで言い放つ。その言葉は河田に深く突き刺さる。

末期がん患者の父を介護する娘を演じる坂井真紀 ©️「痛くない死に方」製作委員会

 やがて、若い河田は悩み考え、学んで成長していく。この映画は、観客にその姿を見守らせるのと同時に、「人が平穏な死を迎えるにはどうすればいいか」という知識と理解が深まるように作られている。劇映画でありながら、原作の書籍から知識をたっぷり盛り込んだ作品なのだ。