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ワイヤーで固定された重要文化財の櫓群

 天守閣が見えた。「ここからだと真正面に見えます。石垣が重なって美しく見えるので、撮影スポットになっています。本丸御殿の壁からしっくいが落ちたり、窓が下がったりしているのも見えますね」と城戸さんが指をさす。

 二様(によう)の石垣に差しかかった。積み上げの角度が異なる二つの石垣が重なっている。角度が緩やかなのが加藤清正時代の建造、角度が急なのは加藤氏改易後に入城した細川氏の時代のものだ。「石垣の形も積み方も違います。技術が進んで急な角度で造れるようになったのです。遠景に天守閣が見えるので、ここも撮影スポットです。下からとは違う角度で見えるので、人気が出ています」と教えてくれた。

二様の石垣。特別見学通路からは眼前に見える

 石垣で通路を折り曲げた枡形(ますがた)は、崩落でふさがれたままになっているのが見下ろせた。「ここにはいつも人通りがありました。昼間の発生だったら、ただでは済みませんでした。もし、けが人が出ても救助隊はなかなか近づけなかっただろうと考えると、今でも恐ろしくて」。そう話す城戸さんの表情は硬い。

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 東竹の丸の櫓群が見えた。「ここには、国の重要文化財の櫓がずらっと5棟並んでいます。ずれ落ちて倒壊しないよう、重しにワイヤーで結んで引っ張っています。近くで白いシートを覆せている土地には、地割れができています」。ひび割れが広がったら、と思うと背筋が寒くなった。

ワイヤーで固定した国指定重要文化財の櫓群。向こうに熊本市役所のビルが見える

復旧工事の「見える化」という挑戦

 熊本市が城の修復で掲げているのは、復旧工事の「見える化」だ。従来はあまりなかった取り組みである。

 歴史的な建造物の工事では、建物をすっぽり覆ってしまうケースが多かった。09~15年に行われた兵庫県の国宝・姫路城の「大修理」はその典型例だろう。工事用建屋で城が見えなくなり、建屋を覆うシートに実物大の線画が描かれた。

 熊本城では、特別見学通路で「見える化」を図ったほか、工事箇所を覆うシートにも工夫を凝らしている。普通のシートでは内部が見えないが、15ミリのメッシュがあるシートを使用して、透けるようにした。これまでの修復工事では天守閣と長塀で使われた。

石垣が重なる。天守閣が正面に見える

 ボルトやクギが落ちたり、埃や塗料が飛散するのは防げないので、近くに他の建物がなく、周囲も広い敷地の場合にしか用いない。天守閣の工事で、上層階に鉄骨を差し込み、限定した場所に足場を構築したのも、「見える」ようにするためだった。

 市が「見える化」にこだわるのには理由がある。