かつては教育熱心な親が「教育ママ」などと呼ばれて問題視された時代もあったが、2010年代以降に使われるようになったのが「教育虐待」なる言葉。日本子ども虐待防止学会によれば「子供の受忍限度を超えて勉強させたり、行きすぎた習い事をさせること」を指す。
実際に「教育虐待」と言える幼少期を過ごした女性に、その壮絶な体験を語ってもらった。
(取材・執筆=常田裕/清談社)
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今年1月、滋賀県内で起きた長女による実母殺害・死体遺棄事件の控訴審判決が言い渡され、懲役10年の刑が確定した。この裁判の過程で注目を集めたのが、被告人が母親からまさにこの「教育虐待」を受けていたという事実だ。母親から地元の国立大学医学部に進学するよう強く求められた被告人は9年の浪人生活を送っており、その間、過度な拘束を受けていたことが明らかになっている。
教育熱心と虐待は紙一重
殺人にまで発展したこの事件は確かに特殊なケースだろう。しかし、小中学校など受験の低年齢化が進む中で、「教育虐待」になりかねない日常を強いられている子供たちは意外に多いという。
「教育熱心と虐待は紙一重ですよね。母にしてみれば虐待しているつもりなんて無くて、良かれと思ってやっていたのは理解できるし、今はそれなりに感謝もあります。でも、気づいた当時は恨みしかなかったです」
こう話すのは鈴木セリーナさん。大分県出身で「田舎のお嬢様」として育てられるが、15歳でドロップアウト。以降は波乱の人生を経て、現在は都内で複数の会社を経営する実業家だ。そんな鈴木さんの子供時代は、まさに「教育虐待」と呼ばれても不思議ではない環境だったという。
「私が通っていたのは地元にあった国立の附属小学校。東京と違って私の田舎では私立が少ないため、教育熱心だったり経済的に余裕がある家の子は国立の附属に入るのが当時のステータスだったんです。小学受験じたいは抽選でほとんど運なんですが、抽選に外れた誰かの親が声をあげて泣いていた光景はいまだに忘れられません」
物心ついた頃には、すでに熱心すぎる教育は始まっていたというが、まずは幼少時代からの習い事をざっと挙げてもらった。