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観客を爆笑させた“インテリの歩き方”実演

 2007年には、荒井さんをはじめ、田中さんを慕う仲間が集まって「田中邦衛映画祭」を開催した。そこでも、田中さんのお茶目な人柄に観客は大盛り上がりだった。

「『ウホッホ探険隊』を上映したのですが、邦衛さんにしては珍しくインテリ研究者の役だったんです。それで、トークショーではこちらから頼んだわけでもないのに、インテリの歩き方を実演してくれた。普段の自分はがさつに大股で歩くけど、インテリは上半身を垂直に立てて、頭を上下させずに歩くと。その姿が面白くて大ウケしました。ラジオ番組に出ていただいたときも、お願いすると、照れながら過去の作品のセリフを再現してくれた。人を楽しませようという気持ちに溢れた人でしたね」

米沢市で2007年7月14日開催した生涯一度の「田中邦衛映画祭」

 俳優としての経歴から言えば、まさに大御所中の大御所。しかし飾ったところがなく、渡辺謙や役所広司など多くの俳優仲間からも慕われていた。そんななかで、田中さんが特に可愛がっていたのが元SMAPの香取慎吾で、NHK大河ドラマ『新選組!』(2004年)に出演したのは、香取に依頼されたからだったという。

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田中さんが明かした「SMAP×SMAP」出演の理由

「『慎吾に頼まれちゅあ、断れねぇよぉ』って言ってましたね。邦衛さんは基本的にバラエティ番組には出ないんですが、香取さんに頼まれて『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)のビストロSMAPには2回出ている。出された料理を完食していたので、おいしいものを食べたいというのも出演理由の一つだったのかもしれませんが(笑)。食べているときにMCの中居さんがいろいろ話しかけるのですが、ガチ食いしたいんで、『うるせぇ、黙ってろ、中居』と制して笑いを誘っていました(笑)。

 香取さんとは役所広司さん主演の『合い言葉は勇気』(フジテレビ系・2000年7月)で初めて共演したそうですが、このドラマも役所さんに直接頼まれて出たそうで、『役所に頼まれちゅあ断れねぇよぉ』って言っていたことがあります」

「本当に大きくて暖かい人。なぜか周りを元気にしてしまう」

 決して親分肌ではないが、頼まれると嫌と言えない。面倒見が良くて、義理堅い人だったという。

「本当に大きくて暖かい人。決して声を荒げたりしないし、人を攻撃したりもしない。邦衛さんを見ていると、人を恨んだりねたんだりする自分が汚い人間だと思わされる。田中邦衛という人間に不思議なパワーがあって、元気出せとか、頑張れとか言わないのに、なぜか周りを元気にしてしまう。私のように、邦衛さんから元気をもらった人はたくさんいると思う」

天童市成生の草野果樹園で挑戦したサクランボ狩り(荒井幸博さん提供)

 純や蛍だけの父ではなく、“国民のお父さん”だった田中邦衛さんは、この世界に「遺すべきものを遺し」て旅立った。

 ご冥福をお祈りする。