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2021/04/27

 ただし、斉藤さんが受けた手術が、彼女の死にまったく関係がなかったとは言い切れない。 彼女の太ももには、出血が広がっていた。出血すると、体にはそれを止めようとする働きが備わっている。脂肪吸引手術を受けてから、斉藤さんの体の中ではそうした反応が間違いなく起きていた。つまり、手術後、彼女の体は血液が固まりやすい状態だった。加えて、術後はベッドの上なりで安静にしていたはずだ。こうした要因が、足に血栓を作った可能性は高い。

海外で整形手術を受けた際の注意

 エコノミークラス症候群は、2004年の新潟県中越地震で注目を集めた。この地震は1995年に発生した阪神・淡路大震災と同じような直下型地震で、最大震度は7を記録。余震回数も多く、被害を受けた自宅に入らず、自家用車で避難生活をする人が多数存在した。その車上(軽自動車、普通自動車)で生活をしていた人たちが、この病気によって複数亡くなった。 乾燥した狭い車内で、ストレスを抱えながら生活をしているうちに、血栓ができてしまったのだろう。また、被災地のひとつ、小千谷市の調査によれば、自動車内だけでなく、避難所で避難生活をしていた人の下肢静脈からも血栓が確認されたという。避難生活のストレスや乾燥、また窮屈な姿勢などが影響したものと思われる。

 現在、この病気の怖さは、広く知られるようになった。飛行機に長時間乗る時は、水分を補給し、体を動かして予防している方もおられることだろう。だが、美容のために受けた脂肪吸引手術で、足に血栓ができやすくなると考える人はほとんどいないはずだ。法医学の現場では、このような想像を超えた死と巡り合うことがある。

 昨今、美容整形の盛んな韓国に渡航して手術を受ける日本人女性も増えていると聞く。私が心配しているのは、術後の回復が十分でないまま、飛行機で帰国の途に就く女性がいないか、ということだ。

 顔のちょっとした整形ならば出る血の量もたいしたことはないだろうが、大量の出血を伴うような手術を受けたとしたら、注意が必要だ。体内で起きている出血を止めようという働きにより、ただでさえ血栓ができやすい手術後に飛行機に乗れば、エコノミークラス症候群のリスクが高まる可能性がある。同様に、もし海外で大きな手術を受けるようなことがあった時は、術後の回復により時間をかけるなどして、十分気をつけていただきたい。

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女性の死に方

西尾 元

双葉社

2019年12月18日 発売

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