現役の法医解剖医として、これまで20年以上にわたり3000体におよぶ死体と向き合ってきた兵庫医科大学法医学講座主任教授で法医解剖医の西尾元さん。主に「異状な死に方」で亡くなった遺体と向き合う日々を過ごす西尾さんだが、近年、気になっているのが「女性の死」だという。
高齢者層の増加に加え、伴侶との死別や離婚、未婚によってひとり暮らしの女性が増え、亡くなり方にも変化が予想されるという。女性の生活スタイルが大きく変わりつつある現代だからこそ、西尾さんのさまざまな経験を記した自著『女性の死に方』から、実際のケースを参考に、自身の「生」を充実させるために気を付けるべきポイントを紹介する。
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太ももが真っ黒になるほどの出血と肺動脈に見つかった血液のかたまり
女性28歳 亡くなった場所:自宅のベッドの上
斉藤遥さん(仮名・28歳)の太ももは、真っ黒になっていた。
長年にわたり多くの遺体と向き合ってきた私も、このような出血の仕方を見たことがなかった。どこか1か所で出血し、広がったわけではない。無数の小さな出血が融合した結果、全体的に真っ黒になっているように見えたのだ。よく観察してみると、黒くなっているところには、針先大のプツプツとした小さな孔が開いていた。
だが、出血した量は決して多くはない。出血多量で亡くなったわけでないことは、ひと目見てわかった。
まず、私は彼女の結膜(まぶたの裏側)を確認した。すると、ここにも針の先ほどの、小さな出血がいくつもできている。これは「溢血点」と呼ばれ、急死した死体に現れるサインだ。急に心臓が止まった場合、心臓を中心に循環していた体内の血液は行き場を失う。すると、静脈の中に血液が溜まっていき、細い部分が切れて出血する。これが粘膜や皮膚の表面に点のようになって現れるのだ。