現役の法医解剖医として、これまで20年以上にわたり3000体におよぶ死体と向き合ってきた兵庫医科大学法医学講座主任教授で法医解剖医の西尾元さん。主に「異状な死に方」で亡くなった遺体と向き合う日々を過ごす西尾さんだが、近年、気になっているのが「女性の死」だという。

 高齢者層の増加に加え、伴侶との死別や離婚、未婚によってひとり暮らしの女性が増え、亡くなり方にも変化が予想されるという。女性の生活スタイルが大きく変わりつつある現代だからこそ、西尾さんのさまざまな経験を記した自著『女性の死に方』から、実際のケースを参考に、自身の「生」を充実させるために気を付けるべきポイントを紹介する。

『女性の死に方』

 

ADVERTISEMENT

◆◆◆

一度も病院にかからず進行する乳がんを放置した女性

女性54歳 亡くなった場所 : 自宅の部屋

 ある朝、警察に高齢の女性から通報が入った。

 90歳近いと思われる女性は、動揺を隠せない様子で「娘が部屋で倒れて死んでいる」と話したそうだ。

 警察が女性の家に駆けつけると、54歳の楢原聡子さん(仮名)は自室で倒れて亡くなっていた。前日、いつも通り昼にパートタイムの仕事に出かけて、帰宅後、家族と夕食を共にしたあと、部屋で眠りについた。

 ところが今朝、いつもの時間に起きてこない楢原さんの様子を母親が見に行ったところ、彼女はすでに息を引き取っていた。

 通院歴もなく、死因もわからないため、解剖に回された。

 解剖室に入り、解剖台に横たわった彼女を見た時、異様なものが目に入った。

 仰向けに寝かされた彼女の胸には、2つあるはずの膨らみがひとつしか見当たらない。彼女の左乳房部分にはぐじゅぐじゅとした潰瘍ができていた。胸の膨らみが失われ、皮膚はえぐられた状態になっている。「乳がん」の皮膚転移による、「がん性皮膚潰瘍」だろうと、私は考えた。