子育て経験がないからこその発想も…?

――そういう意味では高畑さんが実際の子育て経験がないからこそ、うまくフィクションとリアルのバランスが取れているのかもしれませんね。

高畑 確かに逆に自由な発想はできるような気はしますね。実際に自分に子どもが居たらやっぱり何を描くにしてもそのエピソードが一番になってしまうと思うんです。そうなるとガチの育児漫画になってしまう。どうしても楽しい面と苦労した面で、つい苦労側に寄ってしまうというか、「こんなことが大変なんです!」みたいなことを伝えたくなっちゃうと思うんですよね。

 この漫画はあくまで「基本的にはコメディ」というのを最初から決めているので、変に勉強できちゃう感じのものになりすぎない方が良いかなと思っています。あんまり説教じみたものになってしまうと、ちょっと違うかなと思うので。そういうしっかりしたものは実際に子育てを経験していない僕には描く資格もないですしね。

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高畑弓さん ©文藝春秋

家族連れの背中に滲む「幸福感」の美しさ

――こういったテーマのお話を描いてみて、実際に自身の子育てについて考えてみたりもされますか?

高畑 この作品を描き始めてから、道端とかスーパーとかで子どもを連れている人が目に留まるようになりました。描き始めるまではそういう光景について、正直何とも思ってなかったんですけど、今見ると「幸せ感」をすごく感じるというか。

 子どもを連れて歩いているお母さん、お父さん、家族連れ――そういった人たちがスーパーで買い物をしている姿とか見ていると、その後姿だけでも幸せ感がすごいんですよね。それはとても感じるようになりました。だから作中でも、特に2人の後ろ姿のシーンは幸せ感が滲むように描いているつもりです。

――読者にはどんな風にこの作品を読んでほしいですか?

高畑 自分のこれまでの人生を振り返ってみると、「楽しかった経験」というのがそんなに数多くあったわけじゃないんですよ(笑)。だからこそ、読者の皆さんには漫画を読んでいる時くらいは楽しい気持ちになってほしいですね。

 もちろんエピソードのリアルさはありますけど、あくまでフィクションとして2人の“疑似親子”の絆を感じて、温かい気持ちになってほしいです。理想は読んでいる人が、「その世界に自分も居たいな」と思えるものが作れれば最高だと思っています。

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