一般には知られていない中堅ゼネコンの社長にもかかわらず、永田町では知らぬ者のいない有名人だった男が、2020年12月17日に帰らぬ人となった。その男の名前は水谷功。小沢一郎事務所の腹心に次々と有罪判決が下された「陸山会事件」をはじめ、数々の“政治とカネ”問題の中心にいた平成の政商だ。
彼はいったいどのようにして、それほどまでの地位を築き上げたのか。ノンフィクション作家、森功氏の著書『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』(文春文庫)より、芸能界でも幅を利かせていた男の知られざる正体に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
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原発事業と族議員
空港建設をはじめとした公共事業には、中央の官庁が発注する国の工事と県や市町村単位の権限で受注業者を決めるケースがある。たとえば関空の工事なら国交大臣が発注者で、南紀白浜空港のそれは和歌山県だ。和歌山県や福島県の知事汚職に見られるように、自治体発注の工事なら、ゼネコンが県知事に攻勢をかければ済むときもある。しかし、その地域や行政分野に見えない中央政界の力が働くことも少なくない。そのため、そこに不正がないか、東京や大阪の地検特捜部が、実力国会議員の尻尾をつかもうと血眼になってきた。だが、往々にして公共事業における中央政界と地元自治体のつながりがはっきりせず、事件は矮小化されてきた。
中央政界と地方政治、霞が関の官庁と地方の役所、さらに各種の業界や業者。それらが複雑に絡み合った不正や不透明な関係を立証するのは、容易ではない。
たとえば福島県知事汚職の贈賄側である水谷建設は、県発注のダム工事を巡って知事側に賄賂を贈ったとされる。だが、水谷功の狙いはそれだけではない。水谷本人が逮捕されるきっかけとなった脱税事件は、原発の残土処理事業に絡んだ裏金が見つかり捜査が進んだ。水谷は福島第二原発の関連工事を使い、東京電力や中央政界とパイプを築いてきた。いちダム工事より、原発事業のほうが大きな狙いだったに違いない。
佐藤栄佐久の懐柔に奔走した水谷
折しも福島県では、原発事業をとり巻く状況が逼迫していた。たとえば2002年8月、福島第一原発の事故隠しが発覚した。それも大きな出来事だ。知事だった佐藤栄佐久は、従来のプルサーマル計画反対を表明し、原発事業そのものの先行きが危ぶまれていった。そこで知事に翻意させるべく近づこうと奔走したのが、東電であり、水谷功である。水谷が平成の政商と異名をとるようになったのは、このあたりからだ。つまるところ、水谷のもう一つの狙いが東電サイドに立った原発事業であり、そのための知事懐柔だった、と関係者は明言する。
「原発事業には地元政界の意向が強く反映されます。それが中央の国会議員の動きと微妙に絡むことも少なくありません。和歌山県でもそんな関係がありました」
そう話す地元の建設業者がいる。こう言葉をつなぐ。