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未解決事件を追う

《国松長官狙撃事件の闇》現場から消えた“長身の男”…オウム信者の「拳銃スケッチ」は秘密の暴露だったのか

《国松長官狙撃事件の闇》現場から消えた“長身の男”…オウム信者の「拳銃スケッチ」は秘密の暴露だったのか

2021/05/01

source : 文藝春秋 2011年12月号

genre : ニュース, 社会, 歴史

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「詳細は不明なるも三号庁舎の工作員と認められる」

「対外連絡部部長(当時)・姜周日が万景峰号で横浜港に入港し、朝総連(ママ)幹部が訪船した際に同席」

「三号庁舎」とは、朝鮮労働党の工作機関の総称で、このうち「対外連絡部」は、工作員の養成と外国への潜入を担当する機関だった。

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 基調報告によると、北朝鮮工作員 「W」が狙撃事件の直前・直後に、正規ルートで来日した形跡はなく、半年後に、国家科学技術委員会の肩書きで日本に入国した記録があるだけだ。だが、「W」が過去、一緒に来日した北朝鮮の商社の代表者団が、狙撃事件の2日前にも来日したことがわかった。

 このほか、狙撃事件の2週間前、北朝鮮の貨客船・万景峰号が船底を浅瀬で擦ったとして、広島県内の造船所で点検を受けたことも明らかになった。これだけなら単なる接触事故だが、実は浅瀬で「ソナー」を作動させた際に岩礁に衝突したとの分析もあった。ソナーは軍事用で、工作員との通信にも使用可能な代物だった。

「ハンドロード」と「北朝鮮工作員W」、これらの情報は上層部に報告されないまま、捜査は中止に追い込まれた。

「平成最大のミステリー」を生み出したもの

 警視庁公安部は、2010年3月の時効成立当日、元巡査長やオウムの元幹部らが犯行に関わった可能性が高いとする捜査結果をマスコミに公表した。

「組織は真相を覆い隠すために、オウムと元巡査長の捜査に固執したのではないのか。俺たちは15年間利用されたんだ」

 多くの捜査員が解明しようもない謎を抱えたまま、警察官人生を終えた。

 現場の捜査員をして「負け犬の遠吠え」と言わしめた、時効当日の発表が批判を浴びると、今度は「地検幹部の指示があって発表したのだ」との情報を流布しはじめた。だが、筆者がいくら取材を重ねても、地検幹部は最後まで反対したという事実しか出てこない。

 もう明らかだろう。捜査失敗の本質は、真実を躊躇(ためら)うことなく捻じ曲げる組織の体質にある。秘密を盾にした嘘と隠蔽の積み重ねこそが、「平成最大のミステリー」を生み出したのである。(敬称略)

《国松長官狙撃事件の闇》現場から消えた“長身の男”…オウム信者の「拳銃スケッチ」は秘密の暴露だったのか

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