愛する古巣の苦しい戦いが続く。このコラムを書きながら、横目では西川龍馬の芸術的なタイムリーで引き分けに持ち込んだが、借金4、セ・リーグ4位は変わらない。(16日現在)。まもなく開幕から2ヵ月、ベンチはあの手この手で打開策を模索する。
「攻撃と守備のバランスがよくありませんね。打線も繋がりを欠いています。しかし、打順を組み替えることは悪いことではないと思います。一人一人が、自分の役割をもう一度考えるための刺激にもなりますから。繋ぐためにどうすればいいか。そこを考えると、ちょっと各打者がボール球を振ってしまっている傾向はありますかね」。
理路整然と現状を分析するのは、カープ黄金時代の139勝左腕・川口和久である。2011年からはジャイアンツ一軍投手総合コーチも務めている。原辰徳政権ではリーグ3連覇を経験、あのベンチで川口は野球眼を培った。
「1巡目の攻撃では、相手投手の球をある程度見ていきます。2巡目は、狙い球を絞っていきます。3巡目以降は、チームの方向性の中で攻撃を展開します。原監督は言ったものです。7・8・9回は、ベンチで野球をやらせてもらうと。カープも3連覇のときは、そういった野球をやっていましたよ」。
投手は投げる。野手は、打って、守る。担当コーチは技術指導や作戦面に心を砕く。ならば、この統一方針は、誰がどうやって浸透させるのだろうか。
「珍しく投手と飲みに行きたがる後輩が雄祐でした」
「そこを導いていくために、雄祐(河田ヘッドコーチ)が入ってきたのでしょ。カープのコーチで優勝を経験して、スワローズでは、相手サイドからカープを見てきました。そういうことを選手にメッセージとして伝えてくれるはずだと思います」。
2016年のリーグ優勝では、黒田博樹が、新井貴浩が、石原慶幸が投手と野手を繋いできた。そして、チームには一体感が醸成された。
「そういえば、現役時代、珍しく投手と食事に行きたがる後輩が雄祐(河田ヘッドコーチ)でした。先輩、お願いします。そう言って、よく一緒に行動したものです。本当に可愛い後輩でした」。
その記憶の中に、河田の人間力を見出していた。「彼は、目配りや気配りができます。焼肉では率先して焼き手になり、鍋奉行でもありました。焼き方も上手いし、水割りの作り方も、ちょうど良い加減なのです。食事を美味しく、良い時間にするため、妥協がありませんでした。もちろん、野球についても議論したものです」。
ちなみに、川口は、肉ではミディアムレアを好み、水割りは濃いものを求めるタイプである。情報を頭に入れ、瞬時に判断する。確かに、のちの判断力に通じなくもない気がする。しかも、川口の話術である。論は説得力を増していく。
「肉の焼き加減はその人の心です。どうやったら、相手に美味しく食べてもらえるか。網の上に一定時間肉を置くことと、美味しく役ということは全く別物です」。
そろそろ焼肉から離れてみたい。河田は、1996年、黄金時代のライオンズに移籍している。プロ11年目のことだった。このとき出合ったのが、伝説のサードベースコーチ伊原春樹であった。キャンプでは若手中心の走塁ミーティングがあったが、ここに河田も参加を促された。