――今では硬いテーマも扱う社会派の番組というイメージがあります。
森本 番組が始まった当初は肩に力が入っているわけではなくて、いろんな企画を取り入れていました。鉄道の駅を延々と訪ね歩くような地味な企画もあれば、新興宗教を追っかけ回すような結構危ない企画もあったんですよ。その中で「若い子に街中で料理やらしてみよう」という話になって、始めたのが今も続いている「やって!TRY」。これも初めは月に1回くらいの割合でやっていたのが面白いということで、レギュラー化していきました。
「噂の現場」で行政の歪みを追及
――番組ではよく地方行政のトラブルを追及されていましたが?
森本 だんだんと週刊誌でいうところのメイン記事は、「噂の現場」という企画になっていったんです。どうせやるなら硬派なものをやろうと、都市の再開発問題や道路問題、ゴミ問題に税金の無駄遣い。墓地霊園の開発問題、そういうものを何回もしつこく取り上げて、地方行政の歪みを追及した。当時はリポーターが役所に行って「噂の!東京マガジンです」って取材を申し込むと、身構えられたものです。今で言えば「文春ですが」って名乗るようなもんですよ(笑)。
――鋭く事件に切り込んで行く中で、森本さんや番組にクレームなどはなかったんですか?
森本 それは結構ありました。当事者の目はシビアです。対立する側から「お前はあっちに肩入れしているんじゃないか?」って怒鳴り込まれることもあったし、私の事務所に電話がかかってくることもあった。しかし、時代の変化とともに社会の目が段々と厳しくなり、テレビ局も神経質になっていった。番組に「あんまり揉めんなよ」って、プレッシャーもかかるわけです。
30年も歴史があると、当初に比べるとテレビを取り巻く環境が随分変わってきたのが分かるんですよ。いろいろな倫理規定が整備されて、それに合わせて放送も行儀良くなっていった。だから、近年は「番組の切れ味がちょっと鈍いんじゃないの」って言われることも正直ありました。そこは非常にもどかしいところですが、リスクを回避することがだんだん増えて、その分、確かにトゲが無くなったかも知れません。
――60年近くテレビ業界を見てきた森本さんは、この数年の変化をどう受け止めていましたか?
森本 「噂の!東京マガジン」のような現場に行く番組がテレビ界から随分減りましたよね。ボードに張り付いている紙を引っ剥がして説明する番組が多いじゃないですか。紙芝居みたいに一枚一枚剥がして済んじゃう番組が主流になった。現場を踏もうとすると、それだけしんどいし、問題も起こりやすい。リスクもある。だけど、「噂の!東京マガジン」はそこだけは生命線で守り続けてきた。扱っているテーマは、テレビ、新聞が大きく取り上げる問題ではなくても、「これちょっと無視しちゃまずいんじゃないの」っていう出来事をピックアップできたのは現場主義だから。その姿勢はずっと貫いてきました。