「この男を正当化することは絶対にしない」
この役を受けると決めて、デリック・ボルテ監督にまず言ったのは、「この男の行動を正当化するようなことは絶対にしない」ということだったという。
「この男がこんなふうになったのには、何か理由があったのかもしれない。だが、それはたぶん、普通に生きていれば誰にでも起こるような小さなことだったんだよ。僕らは、少しヒントを散らばせてもいる。たとえばレストランのシーンでは、この男は偏執症、被害妄想の気があるのではと思わせる。それに彼は処方薬オピオイドを服用している。オピオイド依存症はアメリカで大きな問題になっているよね。しかし、今作が見せるのはアメリカだけの問題ではない。西洋社会では、白人が怒りの行動に出るということがしょっちゅう起こっている。教会や学校やナイトクラブで悲劇が起こるのを僕らは見た。それに、今じゃトイレットペーパーをめぐって争う姿もね。今作は、はからずして西洋社会の今を映し出すものになったんだ」
アメリカのコロナパニックの中で
アメリカがコロナパニックに陥った昨年3月、全米の映画館が閉鎖されたことで、ほかの多くの作品同様、この映画も当初の公開予定日を諦めることになった。しかし、北米配給権をもつソルスティス・スタジオズは、映画館が再開したら一番乗りすると決め、第一波が落ち着き、アメリカの一部の街とヨーロッパで映画館が開いた昨年夏に公開している。クロウがこのインタビューを受けてくれたのは、北米公開前、欧米が最初のロックダウンを強いられていた時。オーストラリアの自宅からズームで取材に応じてくれたクロウは、ロックダウン生活は決して苦痛ではないと笑顔で語った。
「その前から人里離れたところが好きだったからね。この土地を買ったのは、『L.A.コンフィデンシャル』に出る前。24年も前のことで、僕が買った最初の不動産だ。ここは、人口がとても少ない田舎。買った時は剥き出しの土地があっただけで、道路もなかった。最初に買ったのは100エーカーだけだったが、今は1470エーカーある。僕はここで馬や鶏や犬を飼っている。周囲は森林で、オーストラリアならではの野生動物がたくさんいる。そんなにも前から僕は自分がどんなライフスタイルを好むのか知っていたんだ。結婚して、子供をもつようになってからは、あまりこの家で時間を過ごせなくなったが、今年はずっとここにいることができている。この仕事では、常にひとつの場所から別の場所へと移動し、本当にいたいところから遠く離れた場所で長い時間を過ごすのが普通。だから今、こうやって一箇所にいて、世界各国がこの状況にどう取り組んでいるのかを見つめるのは、僕にとってそう悪いことではないんだよ」