同じ手口で違反キップ逃れ
実際は「後で呼び出して交付しても構わない」と刑事は説明する。
「ただ、“言った言わない”の水掛け論は避けなければならない。そのために余計なことは言わず淡々と処理するのが警察官には大事だ。説諭処分をする時は長々と説教してもいいが、違反を取る時は自信を持って取り締まりの正当性を主張し、黙々と毅然たる態度で処理することだ。
逃げ得を許さないように、取り締まる警察官は自信を持って正当性を主張し、毅然たる態度で処理することが必要」
と刑事は強調する。話を聞くと、幹部が違反キップを切られなかったのはこの時だけではなかった。
交差点先の物陰で取り締まっていた白バイに、これも指定方向外進行禁止違反で捕まった時も「お前が前に出ていて、ダメだと合図すればそれで済むことだ。白バイに乗って制服を着ていれば、それだけで抑止力になるのに、なぜわざわざ隠れるのか。姿を見ても違反するヤツはあんたを無視しているのだから、そういうヤツを捕まえろ」と言い張って見逃されたと話す。
「ヤクザはなるべく違反しないよう気をつけている」
「犯罪を未然に防ぐのが警察の本当の仕事だろうと言われれば、彼らは言い返せない。みんな心の底ではそう思っているからね。ヤクザはなるべく違反しないよう気をつけている。俺たちが法律や条例、警察に詳しいのは、捕まらないためだ」
幹部は高級腕時計をちらりと見た。話を聞き始めてもうすぐ1時間。道路のパーキングメーターも駐車時間は60分以内だ。1分でも超過すれば、見回りしている2人組の駐車監視員に駐車禁止のキップを切られる可能性がある。幹部は立ち上がり、車のキーをセカンドバッグから取り出した。
「車、動かしてくる」
ヤクザが違反しないよう気をつけているというのは本当らしい。