「右折はダメだと旗を振ってサインするのがあなたたちの仕事だろう」
幹部はここで警察官の心を揺さぶりにかかった。
「これは制服を着ているあなたたちの怠慢ではないのか」
その言葉に警察官がたじろいだのを幹部は見逃さなかった。歩き出して停止線を越え、警察官の方を振り返ったと話す。
「少し歩いたこの位置からでないと標識は見えないのに、交差点に進入する前にどうやって標識を目視するんだ? あなたたちは敢えてあそこの位置に立っていて、待ち伏せして捕まえる。大小度合いの違いはあるけれど、犯罪を未然に防ぎましょうというのが警察の大義名分ではないのか」
一見してヤクザとわかるだろう幹部に正論と聞こえる言葉を吐かれ、警察官はグッと息を呑みこんだという。
「『それはそうですね』と答えたから、すかさず畳みかけた。『だったら前まで出てきて、右折はダメだと旗を振ってサインするのがあなたたちの仕事だろう。それを隠れて違反する人をわざと捕まえるというのは制服を着ている警官としておかしくないのか。汚いだろう』」
同じような違反で捕まったことがあれば、こう言いたくなる気持ちはわかる。若手警察官は「まあそうですね」と答えてしまう。
「対応する警察官は1人に限る」
「どうしたのですか」とそこに、先輩らしき警察官が近寄ってきた。幹部の友人の違反を処理し終えたのだ。その警察官に向って幹部は、「お前は見てないだろう。今までの対応を聞いてないだろう」。「いえ、現認はしています。右折しましたよね」。
「また一からあなたに話すと余計イライラする。この人と話していて、納得しようとしている思いがなくなってしまうから、消えてくれないか」と幹部。このようなやり取りが何回か続いたが、先輩警察官は問題なしと判断したのだろう。「わかりました。何かあったら言って下さい」と言って、取り締まりに戻っていったという。
「対応する警察官は1人に限る。他にやり取りを聞いている者がいなければ、後で何があっても“言った言わない”の議論で終わらせることができる」
先輩警察官がその場を離れた後、「『どっちみち今はサインしない。あなたはどこの署?』と聞くと、『○○署の××交番の者です』と言うから『頭冷やしてから、あなたのところに行く。その時にお互いに納得したら、俺はサインする』と言い張った。警官は『わかりました』と渋々みたいな返事をした。まずいなと思いつつ、俺の言うことも的を射ていたから、取り締まらなければという気持ちが折れかかっていたんだ。
一旦はそう答えた警官が、『ちょっと上司に相談します』と先輩の方へ歩き出しだ。だが途中で引き返してきて『やはり違反は違反です』と違反キップを取り出そうとした。俺はすかさず『なんだお前、心変わりか』と言ってやった」