「なんで結婚しちゃったのかな」
内田 その家が完璧に見えているのなら、見つけることは難しいですよね。
中野 まさかあの親がそんなことをやるわけがないだろうと、被害を訴える子どものほうが虚言癖だという扱いを受けてしまうこともある。家族とは集団生活ですから、そこのルールと個人とを天秤にかけたときに、個人のほうが犠牲になる可能性が大いにある、というのが家族のデメリットの深刻な部分です。
内田 そこまでわかっていて、中野さんはどうして結婚して家族をつくったのですか?
中野 一人でいることも好きなんですけど、なんで結婚しちゃったのかな。夫とはお互いに否定し合うところが少ないです。人格的に尊敬しているというところは大きいですね。それがないと、あの人のほうが得しているなとか、私がわり食ってるなみたいに思うようになって、やっぱりお互いに一人になりませんかと言い出すことになると思うんです。でも、大変なときに精神的に支えてくれたなとか、この人は人間としてちゃんとしているなとか、そう思えるから、彼が困ったときに自分も何かできるといいなあという気持ちになります。
内田 中野さんご夫婦はウィークデーは離れて暮らしていて、それぞれ忙しくお仕事をしている。会えるときのウィークエンドだけ一緒に過ごすということだから、素敵な距離感だと思います。それでも一緒に歩みたい、何かシェアしたいし、お互いに尊敬できるって、本当に理想だと思うんです。私は25年間、四六時中一緒にいる夫婦だから、一緒にい過ぎることでどうしても合わない部分が目立ってしまう。もう、中野さんの話はおとぎ話に聞こえるんです(笑)。
本木が納豆を例に語り始めて…
中野 ホントに?
内田 だって、結婚して10年でしょう。私は10年たったときに中野さんのように言えなかった。なぜそう言えない夫婦になっちゃったんだろうって、自問自答しているんです。それで今朝、夫に立ち話で聞いたんです。「こんなに意見が合わないこともたくさんある、価値観が違うことで悩むこともたくさんあるのに、どうしてあなたはこういう生活を選んだの? どうして今もなお続けているの?」って。
そうしたら、本木が納豆を例に語り始めて……彼は小さい頃から納豆がとても苦手なんです。
中野 (爆笑)。
内田 納豆って、嫌いな人にとっては匂いが強烈じゃないですか。私は大好きなんだけど、結婚した当初は遠慮して、本木がいないときに食べていました。でも子どもができると、納豆は身体にいいから食べさせる。そうしたら、「うわっ、食卓に納豆があったら耐えられない。食卓を楽しめない」と言っていた本木が、何年も何年も経て、今では子どもに納豆を出して、食べ終わったヌルヌルの食器を素手で洗っている。
中野 おお、成長だ(笑)。
内田 そう。本木は「小っちゃなことだけど、自分って偉いな」って思うんですって。一人だったら一生そんなことしなくて済んだのに、あんなイヤだったことをできるようになっている自分って頑張っているなと思ったときに、家族がいることに何かありがたみを感じるんですって。
中野 ああ、素晴らしい。それはすごく大事。