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清々しく諦めていくというのが彼のモットー

内田 もっと劇的なカッコいい例を挙げたいけど、そういうことなんです。だから、基本的に人と合わない、価値観が合わないなんて当たり前で、私たちもかなりそれでぶつかって無駄な労力を使っているんですけど、夫に言わせれば、「イヤだって思ったら、何もかもがイヤになるじゃないか」ということなんですね。家庭の外に一歩出たらもっとイヤなことがあるし、もっと合わない人と出会う。でも、そういう自分にとってはイヤなことや無駄に思えることを、結局生きている間はうまくこなしていかなければいけない。だとしたら、家庭内の小っちゃなレベルでもそうやって訓練できるし、少し自分にエールも送れる。「あ、できているじゃない。偉いね、頑張っているね」って(笑)。

 夫は元々忍耐強い人ではあるんです。「辛いのに、ただ忍耐なの?」って聞いたら、「そういう部分も大いにあるけど」ですって。

中野 大いにあるんだ(笑)。

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内田 ほどほどに希望は持って生きているけど、清々しく諦めていくというのが彼のモットーなんです。諦めていくっていうことは、何かすごく寂しいもののように感じるけれども、でも清々しく諦めていくと、人生を積み重ねている感があるそうで。

中野 清々しく諦めるって、カッコいい。字面が本木さんに似合っているね(笑)。

内田 私のほうは、こんなに価値観が合わないでケンカしたりするのに、何で夫婦を続けるんだろうという問いにまだ答えがないんですね。

 

中野 細胞の成長にたとえるのはちょっと変かもしれないんですけど、多能性幹細胞は可能性の塊なんです。何にでもなれる。それが分化して例えば神経細胞になりましたというときに何が起こっているかというと、ほかのものになる可能性をどんどん捨てている。それが成長なんですよ。

内田 では、諦めも成長の一部なのね。

中野 生物は諦めないと成長できないんです。

内田 本木は、真理を分かっていたんですね(笑)。

中野さんは順風満帆で、何も夫婦間のいざこざなんてないように見えるんだけど。

4日を超えてくると、ちょっとつらい

中野 いや、いざこざはある。なんでいつも部屋を散らかしておくの!とか、日常的にあります。

内田 夫婦を続けたいという思いがそれを上回っているのね。

中野 そう思いましたね。夫は、私とはまったく違う生存戦略で生きているわけですよ。私は何か目標を定めて、そこまで一生懸命、息さえ止めて走り抜く、みたいな人生だったのに、もう悠々と、お花畑を楽しみながら歩いている人がそこにいたわけです。どうしてこの人はそんな生き方ができるんだろう、ああ、新しいなと思ったんですよね。この先の人生で、私がその生き方を体得して自分のものにできたら、家族を解消するかもしれない(笑)。

内田 まだまだ教わることがあるっていうことですね。その尊敬する、そして新しいことをたくさん与え合える2人が、もし今のような距離感でなく、毎日24時間一緒にいたら、どうなると思います?

中野 4日を超えてくると、ちょっとつらいかな。