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予想以上の桑原さんの暗躍ぶり

「養子縁組をしたCの支援活動をしているときに、彼の友人のEさんという人の実家が、佐賀市内に3000坪の土地を所有していることを桑原さんが知り、一緒に会社を作って土地を有効活用しようと、Eさんに持ちかけています。それには先の暴力団組長も絡んでいて、そうした流れのなかでEさんと桑原さんが(有印)公文書偽造で逮捕されてしまうんです。結果からいうと、その3000坪の土地は、桑原さんが実質的に動かしている『宙の花』が購入したかたちをとって、他の会社に6億5000万円で売却されました。その際には、件の組長に3億円が支払われています」

 B子さんの手元にはそうしたカネの流れについての資料が残っており、私はそれらを直接目にしながら説明を受けた。魏の件に留まらない、予想以上の桑原さんの暗躍ぶりに、ただただ驚きを禁じ得なかった。

「桑原さんは、Cを養子縁組にしたことでの成功体験によって、魏と養子縁組をしたんだと思います。ただ、じつは魏を養子にする前に彼女は……」

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 そこでB子さんの口から出てきたのは、私自身も深く関わった殺人事件だった。

松永と緒方の子どもにも興味を持っていた

「あの、北九州で女の子を監禁した連続殺人事件があったじゃないですか。松永という男と緒方という女が犯人の……」

 それは02年に福岡県北九州市で発覚した、死者7人を出した「北九州監禁連続殺人事件」のことである。

「あの事件で、逮捕された松永と緒方の間に2人の子どもがいたでしょ。桑原さんは最初は、その子たちを養子にできないかと考えていたんですよ。私は桑原さんからその意向を打ち明けられ、『もしそうなったときは、B子さんも協力してね』って言われていたんです。もちろん、その当時は桑原さんの“正体”を知らないので、私はあくまでも善意からのことだと信じていました」

 なんらかの理由でその計画は頓挫するが、もし実現していたら、また異なった展開があったのかもしれない。

 本来ならば、本人に改めて尋ねたいことは山ほどある。だが調べたところ、桑原さんは15年3月に脳梗塞で倒れていた。さらにB子さんによれば、「彼女の娘婿の話では、数年前に死去した」という。桑原さんがしきりと口にしていた“黒幕”なる人物の存在の如何も含め、すべては煙のように消えてしまったのである。

 いま現在、私にわかったのはここまでだ。桑原祥子という女性は、いったい何者なのだろうか。その人生は、虚飾に彩られたものだったに違いない。

 インターネットでの検索で、10年に彼女を取り上げた新聞記事が見つかった。それは桑原さんが魏を養子にして、「生きて償って」と求めていることを美談として取り上げたもの。同記事には私がその2年前に桑原さんに託し、魏の両親の元に戻っているはずの〈悔〉と書かれた手紙の写真が掲載されている。

魏が父に出した〈悔〉の手紙

 彼女はきっとこの手紙も、本人が善意で死刑囚を養子にしたことの“証”として、利用したのだろう。それによって新聞記者を信用させ、記事を書かせたのだ。

 その記事もまた、彼女の新たな信用作りのためのツールとなったに違いない。

 桑原さんについてはただ、してやられたな、という思いのみが残る。