もちろん、東京でマンションや一戸建てを購入していたらそう簡単にはチャレンジできることではないだろう。だが、2人が暮らしていたのは1Kのアパート。つまり、クマガエさんが退職したことをきっかけとして、気軽な“引っ越し”のような感覚で田舎暮らしを選んだというわけだ。
「まずシャワーがない」
ところが、そこでスタートした田舎暮らし、マンガのタイトルではないけれどまさに異世界での暮らしに他ならなかった。
「最初は今住んでいる場所とは違う、もっと田舎に住んでいたんです。わりと安易に『家賃安いし、空き家を借りて暮らそう』と思って。でも、空き家って状態が良くてそのまま住めるところはほとんどないんです。結局、空き家が見つからなくて、ぼくらは知り合いの古民家にいったん間借りさせてもらったのですが、まずシャワーがない。お風呂に入ろうと思ったら、水をためてそれを沸かすところからはじめないといけないんですよ。クーラーもないし虫も多いし、寝るときには蚊帳が必須だし」(クマガエさん)
「あとは湿気ですよね。古民家って湿気がすごいんです。よく聞くのは、料理に使う木べら、あれをそのへんに置いておいたらすぐにカビちゃうって。自分たちの家が見つかったら引っ越す予定だったので、間借り中は荷物をダンボールに入れっぱなしにしていたんです。そうしたら中に入っていたクツがかびちゃって。そういうことは、都会で暮らしていたら想像もできないですよね」(ルキノさん)
都心のマンション暮らしならば、なにか困ったことがあれば管理会社に連絡すればほとんど待つことなく対処してくれる。不便を感じることはめったにない。ところが、田舎暮らし、とりわけ古民家暮らしでは日常的なトラブルには自ら対応しなければならないのだ。
「雨漏りするってなったら、『じゃあ自分で直すか』みたいな。そういうところから楽しめる人じゃないと厳しいですよね。暮らしをゼロから自分で作っていこう、みたいな意識があった上で移住するならばいいんですけど、ぼくたちはそこまでの準備ができていなかった(笑)」(クマガエさん)