そして相撲を取る日々が再び戻ってきた。インバウンドの伸びとともに「相撲」の需要はどんどん高まっていった。
人気爆発…売れっ子芸人顔負けのスケジュールに
忙しい時には朝の6時にスーパーに出勤し、仕入れなどをして18時過ぎに退勤。そのまま都内の宴会場に出向いて相撲ショー、20時半から午前0時まで浅草のちゃんこ店を手伝って家に帰るという、1日3役をこなした。そのあと付き合いで飲みに行けば帰宅はさらに遅くなった。「さすがにスーパーの店長をやりながらじゃ無理だ」と、そっちはそっちで楽しかった店長業に踏ん切りをつけた。
どんどんお呼びがかかり、田代らが設立した『お相撲さんドットコム』に所属する元力士の人数も少しずつ増えていったが、それでも手が回らないぐらいだった。2019年のピーク時にはまわしを締めたまま浴衣を羽織った姿で都内を駆け回り、分刻みでニューオータニやヒルトンの宴会場をハシゴした。スケジュールのタイトさは売れっ子芸人顔負けだった。
次第にインバウンドの言葉では片付けられない仕事も舞い込んでくるようになる。2019年の秋、田代はベトナム・ハノイで日本をテーマにしたマンションの販売PRイベントに呼ばれていた。
「ベトナム随一の財閥グループのマンションで、敷地内には日本庭園があって、そこで3000、4000人を集めてライブをやってマンションを売る。そこに土俵も作って相撲を取るんです。だから毎週末ハノイまで通っていました」
その出張中に日本から電話がかかってきた。
「月曜日に成田に着いたら、とにかく早く両国まで来い! ちょっと大変なゲストが来るから」
来日していた“超大物ゲスト”の正体
ベトナムから戻り、慌てて駆けつけると、待っていたのは男子テニス世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチだった。東京開催の大会に出場中だったが、短い空き時間を使ってわざわざ相撲を体験しにきたのだった。田代も世界的アスリートとの対面を喜んだかといえば、案外そうではなかったらしい。
「とにかく怪我させちゃいけないと思って気が気じゃなかったですね。怪我させたら何億円の賠償問題になるんだろうって。だから相撲取ってるフリはしてるんだけど、とりあえず押されて下がるだけ(笑)」
その時の様子はジョコビッチのSNSやツアーの公式サイトによって世界中に広まった。