「『宝の持ち腐れ』が世界一似合う」
千賀投手は4月6日の今季初先発の試合でアクシデントに見舞われた。左足首の靭帯損傷で離脱を余儀なくされた。本当にショッキングな出来事だった。
リハビリ組に合流後、包帯グルグルの痛々しい姿に胸が痛くなった。それでも、千賀投手は立ち止まっている暇なんてないと言わんばかりに黙々とリハビリに励み、ハイペースで復帰へ向けて歩みを進めている。そして、多くの若手選手たちが千賀投手に質問に行ったり、その姿に刺激を受けたりしている。甲斐野投手もその一人だ。
「もったいない」
甲斐野投手は千賀投手にそう言われたという。
「何も考えていないお前が158キロ投げれて、上半身の使い方をちょっと出来るようになった俺が161キロ。この差って何かわかるか? ちょっと勉強して161キロ投げれた俺、何も勉強せんで158キロ投げれるお前。お前勉強したら俺より球速くなるの当り前やろ。親に失礼。そんな良い身体で産んでくれた親に失礼だろ」
その言葉の最後に「お前、俺が出会った中で『宝の持ち腐れ』が世界一似合う」と冗談っぽく笑ったというが、エースからの熱い喝は甲斐野投手の心に痛いほど響いた。
「悔しかったです」と甲斐野投手。そこで完全にスイッチが入った。
(※余談だが、エースにそこまで言わせる甲斐野央という男のポテンシャルの高さを改めて感じると共に、ドラマのセリフのような千賀投手の言葉に惚れ惚れしてしまった私は、千賀投手のレプユニを買おうと決意した)
自然と変わってきた投球フォーム
千賀投手のお陰で火が付いた甲斐野投手は、そこから、今まで以上に自分の身体と向き合い始めた。「(千賀さんのような)こんなすごい人でもここまで意識してやっている。自分は甘えていたところもあったなと思いました」と意欲的に学んでいるところだ。
実は、3軍戦登板時と先日の2軍戦登板の時とでは投球フォームが変わっていた。以前よりも早くトップを作るため、上半身と下半身の連動が上手くいくよう試行錯誤してきたという。フォームを変えようとして変えたのではなく、肘にストレスがかからない身体の使い方を学んだ結果として、フォームが自然と変わってきたのだ。まだ完成形ではないというが、この日は取り組んできたことがマッチしてきたタイミングだった。
また、甲斐野投手はコンディショニングトレーナーの勝永将史さんへの感謝も常々口にしている。「僕が悩んでいるとき、めちゃくちゃ親身になってくれた」と勝永さんの存在の大きさを吐露。くじけそうな時も勝永さんはじめ、様々な人が支えてくれたから今がある。そして、千賀投手が火をつけてくれた。今では苦しんだ1年半のリハビリ期間にも感謝している。「この1年半がなかったら、火も付かなかったかもしれないし、すべてのことに感謝です」
清々しい2軍公式戦復帰登板を経て、甲斐野投手は無事にリハビリ組を卒業。2軍本体へ合流した。
「モイネロも森さんもいない。本当に残念なんですけど、若手にとってはここで食い込まないでいつ食い込むんだという大チャンス。自覚を持って1軍に戻りたい」
これまで以上に強くたくましくなった甲斐野投手が1軍の舞台に帰ってくる日が待ち遠しい。愛すべきキャラクターと進化した投球がホークスの救世主になってくれるはずだ。
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