ブタの悲鳴を聞くと、近所の子どもも加勢にくる
生け贄のニワトリをつぶすのは、儀礼を取り仕切る長老であることが多い(写真)。生き血が儀礼で使われるときは、山刀でのどもとを切る。そうでないときはタンパク源である血が流出するのを嫌って、頸をひねる。そして羽をむしってから表皮をたき火で焼き焦がし、残った毛くずは竹ベラでこそげとる。頸を落とし生き血を椀に取ったあと、腹を裂いて内臓を取り出し、腸管内の残滓(ざんし)は捨てる。それから大鍋で沸かした湯の中に頭、頸以下、内臓の大半、生き血を入れ、これに青菜、トウガラシ、ニンニク、レモングラス、ナムプラー、食塩、ペースト状にした肝を加えて煮る。
他方、生け贄のブタをつぶす役目は、体力のある若い男たちだ。太い立ち木の根元に荒縄でブタをつなぎ、その額めがけて木の棍棒を振り下ろす。体重二〇〇キロの大物だとこと切れるまでに一〇分はかかる。ブタの悲鳴を聞くと、近所の子どもも加勢にくる。瀕死のブタの喉元を足で踏んで、とどめを刺しにかかる少年もいる。息絶えたブタには熱湯をかけ山刀の背で表皮をむいてから、手頃な大きさに切り分ける。一部の肉は、血と和えてミンチにされ、フレーク状の乾燥トウガラシをまぶしてから生食される。
ブタは正月や婚礼などの大がかりな儀礼で用いられるのに対し、ニワトリは規模の大小を問わず様々な儀礼で使われる。
たとえば焼畑での儀礼では、調理されたニワトリの一部が、作業小屋内の吊り棚に供えられ、残りは村びとの食膳に上がる。精霊と村びとによる「共食(きょうしょく)」だ。長老は語る。「共食のとき、子どもは自然との一体感を強く意識する。そんな子どもは大人になっても自然を大事にし、またそれを次の世代へ引きついでくれるだろう」。
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