1ページ目から読む
2/2ページ目

「町の女だな。甘い雰囲気だね!」

 三人とも家業の焼畑耕作を手伝いながら、自分らしい生き方を模索している。B(二五歳)は通信制大学で会計を学ぶ。その従弟P(二七歳)は、所有するピックアップで農産物の運送にいそしむ。そしてPの妹G(一七歳)は、村に伝わる詩歌の聞き書きに励む。

 通りに面したテーブル席につくと、私たちは米粉麺とライスを注文した(写真)。Bは、スマホをチェックしたあとで、村びとが蜜蜂に刺されたとか、山刀を失くしたとか、他愛のない話をした。

豚肉入りの米粉麺。ニンニクが効いている。

 ひとしきり食べたあと、Bが、スマホの画面から顔を上げ、「ちょっと中座してよいか」と訊いた。皆がうなずくと、Bは、「面倒だなあ」とつぶやいてから、食堂の自転車を借りて出ていった。Pはニヤけ顔で「町の女だな。甘い雰囲気だね!」と言った。

ADVERTISEMENT

 しばらくしてPの携帯電話が鳴り、Bから「女子が二人いるから、お前も来い」という内容の電話があった。助太刀するよう私が背中を押すと、Pは食堂のバイクを借りて飛び出していった。

「他民族の女性が相手なら、とやかく言われませんから」

 食堂に残されたGと私は、タイ風焼売(シューマイ)を追加。私が「女性の友だちが町にいるなんて頼もしい」と感心していると、Gは「他民族の女性が相手なら、村内でとやかく言われませんからね」と言った。

また別の村で。婚礼前の両家の顔合わせに際し、御馳走を準備する村びとたち。豚肉を切り分けているところ

 Gは続けた。「私たちはふつう、同じ民族どうしで結婚します。それまでは異性と広く浅く付き合います。気に入っても手に触れるくらい。異性の友人たちを数年間よく観察し、それから特定の相手を決めます」。私は、「窮屈」というのとは少々違うなと思った。

 二人は一時間足らずで戻った。「通信制大学のスクーリングで知り合った友人たちです」とBは話した。期待外れの開けっぴろげな会合だったらしく、拍子抜けしたような表情だ。他方Pは、会合を堪能したと見えて、すっかり日も暮れたのにサングラスをかけていた。Gは、二人の中座について何も触れず、また別の話をした。

【最初から読む】《ブタの額に棍棒を振り下ろし、喉元を踏んでとどめを刺す》精霊信仰の村で“生け贄”が続けられる理由

北タイ・冒険の谷

富田育磨 ,久保谷智子

めこん

2021年4月23日 発売