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「留置場でヤクザと友達に」ブタ泥棒疑惑での別件逮捕から釈放…ベトナム人“群馬の兄貴”独占インタビュー

安田 峰俊 2021/05/05

4回の別件逮捕と迷宮入り

 2020年秋に日本じゅうを騒がせた、北関東における家畜の大量窃盗事件は、実は現在に至るまで真相が解明されていない。

 同年10月26日、群馬県警は事件と関係があると踏んで、兄貴ハウスに暮らすベトナム人の不法滞在者(正確には大部分がすでに入管に出頭済みだったコロナ帰国困難者)の男女13人を入管法違反容疑などで逮捕。さらに隣接する埼玉県警によるものも含めて、昨年10月以降に家畜窃盗がらみとみられる摘発を受けたベトナム人は20人以上におよんだ。

なぜか兄貴ハウスの戸棚に貼られていた桃月なしこのピンナップ。不法滞在者たちの生活を癒やしている。(筆者撮影)

 だが、大規模な逮捕作戦が展開されたにもかかわらず、最後まで窃盗容疑での立件はなされなかった。なかでも主犯格とみられた“群馬の兄貴”ことレ容疑者は、入管法違反(不法残留、偽造在留カード所持)、道交法違反(無免許運転)、さらに同胞の在日ベトナム人に対する逮捕監禁など、勾留期限が切れるたびに事実上の別件逮捕を繰り返された。

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 しかし、彼は合計4回の個々の逮捕容疑はすべて認めたいっぽう、家畜窃盗についてだけは否認した。別件逮捕の容疑はいずれも微罪であり、多くは立件されず、彼は4ヶ月あまり後に釈放された。泰山鳴動して兄貴1人の容疑も固まらず、群馬県警の失態とみたほうがよい。

 さておき、釈放された兄貴に連絡を取ってみたところ、あっさりと取材に応じてもらえた。そこで私たちは久しぶりに新田上中町の貸家を訪ねたのだった。

俺はシロだよ。やるわけないだろ?

 以下は一問一答形式で紹介していこう。

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──事実上の別件逮捕が4回も繰り返されるのは、被疑者が日本人であれば社会問題になってもおかしくありません。正確な釈放日時は?

兄貴:釈放は3月3日だ。群馬県警の取り調べでは、暴力や暴言なんかは受けてない。ただ、気持ちのいい態度で接してもらったってわけでは決してないね。

──念のため聞きます。本来の捜査理由だったと思われる家畜窃盗事件は、兄貴は本当に“シロ”ですか?

兄貴:シロだよ。やるわけないだろ? 警察に疑われたが、あれは間違った逮捕だった。俺たちは本庄(埼玉県本庄市)の食肉解体場で肉を買ったんだが、その数日後に捕まったんだよ。だが、血抜きされた豚を買ったときの伝票は残っているわけで、肉は盗品じゃないんだ。仲間の誕生日なんかがあって、肉を多めに買っていただけだ。

運転免許を持っている舎弟(正規のビザを所有)の一人を呼び出し、移動する兄貴(左)。さすがに現在は無免許運転をやらないように気を使っているようだ。(筆者撮影)

──本庄市の食肉解体場に併設されている肉屋ですね。私たちも昨年11月の時点で裏取り取材しています。確かにあの肉屋は、一般のスーパーなんかでは売っていない部位も売ってくれますし、ベトナム人やブラジル人など外国人の御用達みたいです。在日ベトナム寺院の大恩寺にも近い。

兄貴:ああ。しかし、店で買った牛のテールだとかも警察に押収されたぞ。ちくしょうめ。