暑いときも寒いときも、誰もいないフロアでシュートを打ち続けた夜
しかし渡邊は、時に逆風が吹き荒れる中でも、とにかく誰よりもよく練習して着実に力をつけた。結果のみならずそんな姿勢でも、チームメイトやコーチの尊敬を勝ち得ていった。カレッジ時代、ホームアリーナでの最大の思い出を聞いた際のこんな言葉は、渡邊のパーソナリティを象徴しているのだろう。
「試合を振り返っても多くの思い出があるんですけど、個人的には、暑いときでも寒いときでも、夜になると毎日体育館に足を運んで、誰もいないちょっと薄暗いフロアでシューティングマシンを使って、何百本もシュートを打ってきたというのが最も思い出に残っています。そうすることによって成長し、少しずつゲームでも出せるようになっていったんです」
「初めて会ったとき、ユウタは“Hi”しか言えなかった。それが…」
1、2年生の頃は大人しくシャイだった渡邊だが、英語が上達し、積極性の大切さも学び、3、4年生と上がる内にリーダーシップにも磨きをかけていったことも印象深い。キャプテンの1人にも任命された4年生時には、自ら声を出し、不甲斐ないゲームの際には仲間たちを涙ながらに叱咤し、必死にチームを引っ張った。3、4年と進むにつれて、試合後の会見で堂々と英語で受け答えをする機会も増えていった。
「初めて会ったとき、ユウタは“Hi(こんにちは)”しか言えなかった。それが今では英語でジョークを言うまでにもなった。そんなエピソードこそが、彼がどれだけ長い道のりを歩んできたかを物語っているんじゃないかな」
渡邊の2年生時のチームでキャプテンを務め、後にジョージ・ワシントン大に職員として勤務するようになったジョー・マクドナルドはそう述べた。カレッジ生活の中で渡邊が遂げた成長と適応の両方が窺い知れる逸話と言えよう。
プレイヤーとしても、4年生時には所属したアトランティック10カンファレンスの最優秀守備選手賞を受賞。稀有なバスケットボールIQを存分に発揮し、サウスポーからのロングジャンパーを軸に、オフェンス面でも4年連続で平均得点を上昇させていった。爆発的な身体能力はなくとも、複数のポジションを守れるディフェンス力、多才さ、献身的姿勢、練習熱心さ、リーダーシップを持ったサウスポーが、プロのスカウトからの評価を徐々に高めていったのは当然だった。